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ディベートを華麗に仕切る緊張気味の筆者(中央) |
日本英語交流連盟(ESUJ)が主催する「全国大学対抗英語ディベート大会」については、2009年の「日本貿易会月報11月号」と「ABIC Information
Letter No.26」でもご紹介した。今年も澄み渡った秋晴れの10月2日(土)第13回大会が開催され、代々木公園に隣接する国立オリンピック記念青少年センターに、2年連続で馳せ参じた。
1.「チェアマン」と「イエスマン」(差別用語だ!):
さて、今年の大会には、北は秋田から南は北九州まで国公私立28大学(32チーム)から英語マニアの精鋭大学生が参加した。我がABIC軍団からは、声も態度も結構デカい(m(_
_;)m)百戦錬磨の商社OBなど10名ものボランティアがチェアパーソンとして参加。大会運営に大いに貢献し主催者から大いに感謝された・・・はずだ。自分的には初参加で大いに緊張した昨年に比べ2度目の今年は慣れたもの。事前説明も軽く聞き流し、いざ出陣。
余談だが、最近は「チェアマン」は差別用語らしい。チェアは「椅子」で「マン」は男だから「椅子男」、確かにこれは差別用語かもしれない。こうなると「スーパーマン」は「スーパーパーソン」だが、まるでスーパーの店員さんだ。また、大企業では出世すると言われている「イエスマン」も「イエスパーソン」と呼ばれる日は近いのか。
2.予想は大外れ(期待を裏切る超難関校):
冗談はさておき、第1回戦の議論のテーマは(専門用語では “Motion”と呼ぶが、気に入った相手にモーションをかけるという意味ではない)、「最も公平な税は消費税である」だったが、私もよく知っている菅直人首相にも十分配慮した注目の政局テーマだ。私が最初に担当したチームは、役所、銀行、商社などに「きっと優秀なOB」を多数輩出している有名国立大、もう一方は、オリンピック金メダル選手も輩出する有名私立大だが、世間の“オッズ”はどうしても偏差値70超の国立大に傾く。(ここは国技館ではないので「賭博」は行われていないはずだが。)
先発の私立チームのリーダーは、最初のProposition Speech(提案演説)から微妙な巻き舌を織り交ぜた流暢な英語で飛ばしまくり、それは「英語は度胸」を旗印に世界中を飛び回る「商社パーソン」も舌を巻く程だ(個人的には「商社マン」と呼ばれたいのだが)。さて、そうなると次に登場する“超難関”国立大チーム(“難関を超える”ということは、“ごく普通”と言うことか?)のリーダーによるOpposition
Speech(反対演説)には否応なしに期待が盛り上がる。
ところがどっこい、庶民の期待は無残にも裏切られ、国立君は何故か「ボソ・ボソ」と元気がなく話のテンポも今ひとつ。「おいどうした、大丈夫か?」と心で叫んでみたが、その差は歴然。試合後に「明日の試合も頑張れよ」と掛けた言葉がむなしく響く秋の空。翌日の決勝リーグに進出できるのは32チーム中8チームだけなのだ。(ここで登場する大学は、多分、実存する大学ではありませんので、あまり真剣に考えないで下さい。)
3.ディベートと英国議会(日本の国会との落差):
ESUJのディベート(各チーム2人制)は、英国議会での討論を模したもので、与党(首相)が提出した法案に対し、野党が因縁をつけて廃案に持ち込もとして論争する形式でおこなわれ、情報力や分析力、論理性や説得力を競うものだ。似たような光景は日本の国会中継でも見られるが、ディベートは、答弁原稿の読み方や質問のはぐらかし方、ガンの飛ばし方やヤジの下品さ等を競うものではない。
極東の某斜陽経済大国で、今でも人気を誇る元首相が多用した「関係各署と十分に協議し、適切なタイミングで総合的に判断する」といった完璧無比で国民無視な答弁では、ディベートでは絶対に勝てないのだ・・・いや?ひょっとして、これはディベート史上最強の武器になるかも、「コイズミさん恐るべし」。
4.ディベートは頭脳の総合格闘技(あなどるなかれ):
論争テーマ(Motion)は、直前に発表され、賛成派・反対派のどちらになるかも試合の直前に決まるので、選手には英語力だけでなく、どんなテーマにも即座に対応できるよう、時事・社会問題に関する幅広い知識が要求される。
因みに、予選4試合のテーマは、
1)「消費税は最も公平な税である」
2)「幼児虐待の可能性がある場合は令状なしで住宅に入ることを許可すべき」
3)「動物を食べることを禁止する」
4)「日本は武器輸出を解禁すべき」
と、どんどん過激になっていく。
普段は日本語でも議論しないテーマを英語で議論するのだから、学生さんにとっては本当に難しい競技だ。また、試合中に一方の男性選手が敵方の発言を遮ろうとして「質問あり!」と元気よく起立すると、演説中の女性選手に「Sit
Down!」(おすわり)とキツイ言葉で切り捨てられ、すごすご着席させられる。
大学のESS(英会話クラブ)は、「軟派・軟弱学生の巣」と呼ばれた時代もあったが、今日的ディベートは、英語力に加え、図太い神経、緻密な脳ミソや口から出まかせの舌先三寸までもが要求される過酷な頭脳の総合格闘技なのだ。
5.チェアパーソンの苦労と密かな楽しみ(ウッシッシと主催者への苦言):
「チェアパーソンは、進行表に書いてある“決まり文句”をそのまま読み上げるだけですから、何も難しいことはありませんよ」との主催者の説明でコロッと騙されてしまうが、実際には、発言者の名前や順番、賛成・反対演説を間違えそうになったり、途中で睡魔に襲われたりで、我々は疲労困憊する。また、名前を読み間違えると(特に)女子選手から「私の名前は違います!」と厳しく糾弾されることもある・・・トホホ。
我々は、朝9時半に会場に集合し、試合は10時から始まり1時間半程度の休憩や昼食をはさみ、1日で緊張の4試合をこなす。予選が終わるのは日も暮れなずむ夕刻18時。これは平均年齢60数歳を遥かに超えるABICシルバー軍団にとっては「結構キツイ」・・・と感じるのは、その中では最も若い還暦前の自分だけか。
ただ、そこには小さな楽しみもあると聞く。自分の娘より若い女子大生選手に「ディベートではね、明るく元気な声でハキハキと発言した方が有利だよ」と英語力とは無関係な「勝利の秘訣」を優しくアドバイスしてあげるチャンスがあり、「ハイ、頑張りま〜す」と言われると「来年も絶対に来るぞ」と思うのだとか。ウーン、分からんでもない。一方で、「俺の担当したチームは何で野郎ばかりなんだ」との恨み節も漏れるとかで、この点に関しては、主催者には、猛省と善処を強く要望したい。
個人的には、主催者側幹部の上品な年配紳士から「他のチェアパーソンに比べ、あなたの声が一番大きかった」と身に余るお褒めの言葉をいただいたのが大変嬉しかった。
因みに、予選のチェアパーソン業務で疲れ果て、翌日の決勝戦の観戦は棄権したが、聞くところによると、最終決勝戦は、「一院制より二院制を支持する」(This
House prefers the bicameral system to the unicameral system.)とのテーマで、早稲田大学と東京大学の2チームで争われた。(Bicameralとは“二眼レフカメラの”という形容詞と思っていたのだが?)ともあれ、レベルの高い激戦の結果、僅少差で早稲田大学が優勝したとのこと。因みに、3位に入ったのは、慶応大学と国際基督教大学の2チームとのことで、「さもありなん」と納得した。
ともあれ、戦後の日本経済を支えてきたABIC軍団各位の善意とバイタリティーには本当に頭が下がる。若者よ、見習うべきは目の前にあり。
「ABIC万歳ァ〜イ!」
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