マンスリー・レポート No.86 (2008年2月)
活動会員のレポート
  あくなき「知」の追求
    千田せんだ 英樹ひでき(元 住友商事)

1981年に発足した生涯学習の学び舎「早稲田大学オープンカレッジ」は、江戸時代「八丁堀同心屋敷」が置かれていた所にあり、2007年には約1,400の講座を開講し、27,000名の受講生、32,000名の会員を有する斯界の雄である。ここでは「江戸・東京」、「心と身体ケア」、「生活」、「総合」、「ビジネス・資格」、「外国語」と広範な分野で教養講座の輪を展開している。「総合」には、「人間の探求」、「芸術」、「歴史」、「世界」、「文学」、「自然科学」と私が2007年7月と8月に講座を持たせていただいた「現代社会」の教室がある。

事前に事務局に打合せでお伺いした時驚いたのは、同じジャンルの講師に“インテリジェンス戦略”で著名な手嶋龍一氏(元NHKワシントン支局長)がおられたことであった。ABICの知名度とその講座実現の努力に感動すると共に、身の引き締まる思いを強くした。

授業中の教室を幾つか廊下から見学させていただくと、ムンムンする熱気が教室の外にまで伝わってきた。私の講義テーマは「目が離せない新しいロシア」で、「ロシアと日本の関係」、「ロシアの天然資源」、「プーチンのロシア」、「ロシア人のものの考え方」の四つに分けてお話させていただくことになった。

当初どのくらい受講生が集まるのか心配であったが、幸い定員オーバーとなった。講義を進めるごとに感じられたのは受講生の知的レベルの高さであった。昭和30年代から激動の半世紀の間、日本が“貧しさから豊かさ”へと登りつめた時代に必死に努力してこられ、講師の私と共通の想い出、共通の体験を持っておられる方々である。当時の日本では、官民とも「社会主義イデオロギー」に何らかの「思い」を持ち、一人一人が「自分の社会主義観」を持っておられたのではないだろうか。

私は、ソ連邦・ロシア共和国での多くの体験をテーマに沿ってお話して、“どうしてあの狂気の社会が生まれ、増殖し、崩壊していったのか”を淡々と語ることに徹しようと思った。独りよがりになることを極力避けて、受講生が冷静に判断できるように、その助けとなる材料の提供に心がけた。

講座開始前に近所の喫茶店や八丁堀校の談話室で、顔見知りとなった受講生達に講義内容についての感想とかコメント・要望などをこまめにお聞きした。同時に講師控え室で他講座の先生方から「一口アドバイス」を受けたりした。

嬉しかったのは、講義が終了すると多くの受講生が拍手をしてくれ、何人かが熱心に質問をぶつけてくれたことであった。講義の時間より終了後のQ&Aの時間のほうが多いくらいであった。質問の幾つかをご紹介すると、民族・歴史に関するものでは“フン族の民族構成”、“ロシア人とトルコ人との関係”、“エストニア民族の悲劇”、経済関係では“ロシアファンドの不安要素”、“サハリン2へのロシア政権の横暴”、文化関係では“プーチン政権の教育実態”、“ギリシャ正教のまやかし”、“ソ連時代のロシア民衆の心”、“ロシア人のスポーツ能力・芸術能力(音楽・バレー)などでそのレベルの高さに驚かされた。また、事務局経由で受講生達からファンレター的な手紙を頂いた嬉しさは忘れられない。

ABICと事務局の「早稲田大学エクステンションセンター」との良好な連携、優れた講座運営システム、ABIC大学講座担当コーディネーターの方のアドバイスで作成した各種資料が受講生に好評であったことなどから、緊張感のみなぎった満足のいく講義をすることができた。2008年も引き続き講座を持たせていただくことになり、舞台裏の皆様のご協力に対して心から感謝している。

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