マンスリー・レポート No.75 (2007年3月)
活動会員のレポート
  20年ぶりのパナマ
  JICAシニア海外ボランティア
パナマ協同組合庁アドバイザー
(元 住友銀行) 森川もりかわ 建夫たてお

 早いものでJICA(国際協力機構)のシニア海外ボランティアとしてパナマに赴任し、まもなく2年が過ぎようとしています。20年前に仕事で家族を連れて4年間こちらに住みましたが、今回はその恩返しの気持ちもあって再び赴任してきました。

 20年前との違いは何といっても1999年末のパナマ運河返還とそれに伴う米軍基地の撤退でしょう。運河地帯のアンコンの丘にひらひらと翻っていた星条旗の代わりに赤、白、青のパナマ国旗が誇らしげに翻っているのを見て変化を実感しています。パナマの人達は以前よりも自信に満ち、誇らしげになったと感じます。去る10月には約6,200億円を投資するパナマ運河拡張計画が国民投票によって承認され、今後7年間は好景気が約束されています。

IPACOOPによるパスイデサロージョ組合への資機材引渡し(筆者右から2人目)
パナマ運河
草の根資金授与式
 一方で建築ラッシュに沸くパナマ市を少し離れると昔と変わらない景色が広がります。平たんな土地は大規模資本によるサトウキビ畑、水田、牧場等が延々と連なり、農地に適さない山の斜面は焼畑農業でほとんど木がなくなって、やせた土地に零細農民が細々とトウモロコシ、豆などを栽培しています。

 赴任先の協同組合庁(IPACOOP)ベラグアス県支部は県内にある19の協同組合を指導監督する官庁ですが、ベラグアス県はパナマの中でも最貧困地域で、先住民も含め数多くの貧農が住み、大半の農協はそのような零細農民で成り立っているため、その活性化、経済的発展をどのように促すかがIPACOOPにとって最大の課題でした。2005年4月にシニアボランティア2名が配属されて、IPACOOPでは家族農場自給プロジェクト(Proyecto Granja Familiar)という零細農協組合員を対象にしたプロジェクトを昨年1月に立ち上げました。これは県内11組合175農家を対象に自分の農地で家族が1年間食べていかれるだけの食料を生産しようとするもので、まず農家の自助努力、次にIPACOOPおよびJICAボランティアの営農指導、そしてJICA/日本大使館の資金援助という三位一体で成り立っているプロジェクトです。昨年1月から8月まではJICAのボランティア派遣スキーム、そして8月には待望の大使館の「草の根無償資金援助」約8万6,000ドルが実行されて本プロジェクトは順調に実施されており、目に見える成果が出てきました。

 その一つであるブエノスアイレス村にあるノベブグレ組合を例に取ると、対象15農家にすきくわ、スコップ、手押し車など5セットを順番に貸して、農民が自分の土地で畑を耕し、水田を起こし、塩ビ管で水を引いて、そこに、供与したトウモロコシ、ユッカ、ニャーメ、水稲、豆などの種子をまいて育てる一方、現地にある雑草を刈って牛ふん、馬ふんと混ぜて有機肥料を作り、これを田畑に施肥するという、日本からみたらまことに原始的なやり方ですが、まずは自給自足を何とか達成させようとするものです。すでにいくつかの水田では第1回目の稲刈りが終わり、2回目の田植えをして稲が順調に育っています。

 貧富の格差が中南米でも2番目というパナマで、農協を通じて少しでも貧困削減に役立てればとの思いで活動してきましたが、まだまだ道は遠いと言わざるを得ません。幸いIPACOOPベラグアス県支部は本プロジェクトの立ち上げにより、見違えるほど活動が活発化しており、そこに明るい希望を見いだしています。

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