マンスリー・レポート No.53 (2005年5月)
活動会員のレポート
  只今、JICA長期専門家としてインドネシアで勤務中
    インドネシアJICA長期専門家
地場産業振興アドバイザー
黒川くろかわ 智水ちすい(元 ニチメン)

 2003年6月にABICより推薦を受け、7月経済産業省技術協力課のscreeningを経て8月から約1ヵ月間JICAの赴任前研修を修了後、10月にジャカルタへ赴任した。私の勤務先はジャカルタにある工業省内で、施策課題は地場産業振興アドバイザーとして中小企業育成に尽くすことにある。勤務期間は2年間である。
 言うまでもなくインドネシアの地場産業は、ほとんどが中小企業の域までも到達していない零細手工業と言ってよく、これらを育成するためにはあらゆる面からの支援が必要である。私はデザイン手法の啓蒙による産業力の向上(デザイン振興)およびマーケティング手法の強化支援(マーケティング振興)という二つの切り口で対応することにした。
 活動内容を、具体的に事例を挙げて説明する。

講演する筆者

1.地場産業振興セミナー等での講演
 地場産業振興策実施の一環としてセミナーが非常に大きな役割を果たしている。2004年6月にJCC(Jakarta Convention Center:国際会議が行われる一級会議場)にて工業省主催の国家レベルのセミナーが100名の参加者を得て開催され、講演およびパネル・ディスカッションが行われた。議題は「WTO加盟によるクウォータ制度廃止に伴う繊維産業の対応策」で、繊維産業の先輩国日本代表として私に講演およびパネル・ディスカッションに参加要請があった。インドネシアの繊維産業は中小企業が大半である。中国という巨人にどのように対抗していくか、インドネシア政府も世界各地に赴任している商務官を呼び戻しパネル・ディスカッションに参加させる熱の入れようで、私も講演とパネル・ディスカッションで十分意見を述べた次第である。このセミナーはマーケティング振興の側面から役割を果たした。

2.バリ国立芸術大学で講義
 インドネシアでは国立芸術大学はバリとジョクジャカルタの二つしかない。デザイン科の学生は卒業すると多くが地場工芸品の中小製造輸出業に就職する。日頃、大学ではデザインに関するコンセプトやら制作プロセス、デザイン史などを教えているが、私が講義した現実的な市場に受け入れられるデザインやら市場構造などを聴き、今まで知らない世界を知ることができたと、むしろ学生より教授陣が驚嘆の声をあげ拍手喝采をしてくれた。私としては大学というのはアカデミックなことを教えるところと承知していたが、かくも現実離れしているとは思いもよらなかった。

セミナーのオープニングスピーチをする筆者

3. 啓蒙セミナー「Marketable Design for Japan」を企画・実施
 私がイニシアティブをとり、企画、実行した自己完結型セミナーをJICA―Netという衛星高速回線を通じたI/T遠隔講義を活用してバリで実施した。JICA―Netは日本の市場専門家・権威者・学者など多忙で遠隔地へ赴くことができない講師が、東京のJICA本部にて大型スクリーンを通じ遠隔講義できるもので、視覚性と双方向性がありデザインの講義には最適である。当方このJICA―Netを使い世界銀行グループで民間部門を担当する国際金融公社IFC(International Finance Corporation)とコンソーシアムを組みこのプロジェクトを推進した。
 セミナーの議題は「Marketable Design for Japan」とし、アパレル、家具、手芸品につき日本の市場権威者による日本市場の趣向性に関する講義、質疑応答をリアル・タイムで行った。セミナーはソフトを持っているJICAが主導で推進、IFCは場所、設備、昼食の供与という裏方の役割分担とした。
 それにしても私の商社時代には、コンソーシアムでプラント商戦に臨んだ際、欧米がプライム、日本は客先接待やホテル・飛行機の予約、せいぜい機器搬送などの裏方の立場に甘んじてくやしい思いをしたが、今回の共同事業はわが方が主役となり世の中も変わったと感慨を新たにした次第である。
 このセミナーの参加者は50名を予定していたところ130名が押しかけ、大変な盛況となった。日本語新聞、英字新聞の全国版Jakarta Postや地場の新聞紙上にセミナーの模様が大きく掲載された。

 赴任後1年余りが経ち、政策推進活動にも充実感が出てきた。私の勤務も残り半年余りとなってきたが、今後も精一杯任務に力を尽くしていきたいと思っている。

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