
株式会社たくぼ代表取締役甲斐陽一郎氏としめ縄作品(右が筆者)

しめ縄製作の実演
ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム」の専門家としての仕事を遂行するにあたり、ジェトロの業務委託先法人であるABICに2025年3月に会員登録した。同年10月に会員へのメールで「宮崎県ものづくり企業海外ビジネスサポート事業コーディネーター」の募集を知り応募したところ採用いただき、しめ縄製作を営む株式会社たくぼの欧州進出を支援することになった。
この支援のゴールは、2026年2月にドイツで開催される世界最大級のインテリア・デザインの展示会「Ambiente/アンビエンテ」のジャパンブースにおいて、同社代表取締役の甲斐氏が披露する、しめ縄製作の実演を成功に導くことであった。11月の支援開始後すぐに宮崎県高千穂郷にある同社を訪問。しめ縄の素材となる高品質のわらを調達するために、田植えから手がけて100%ハンドクラフトの製品づくりをしているという言葉の通り、オフィスとアトリエは棚田が広がる山間地区にある。米の収穫前に採取する香りが高く繊細な青わらと、米の収穫後に採取する丈夫な黄わら。それぞれのわらの特徴を活かした製品に囲まれたオフィスで、甲斐氏のものづくりの考え方、しめ縄の地理的・歴史的・宗教的背景、海外進出の展望などをヒアリング。これをもとに、欧州のインテリア市場向けのブランディング戦略の基礎を短期間でできる限り構築し、実演時に欧州のバイヤーに伝えていくことが私の仕事となる。
展示会までの実質2ヵ月を有効に使うため、展示会で配布するリーフレットのコンテンツから着手。欧州では認知がない「しめ縄」を、高級インテリア製品としてどのように現地のバイヤーに伝えていけばよいかをブランディングをもとに考察し、日本語でまとめる。これを甲斐氏と協議し、英語版の文章をライティングしていく。サステナブルな観点からも、欧州の展示会では紙のリーフレットを持ち帰るバイヤーは少ない。リーフレットのデータをQRコードから読み取れるように、ショップカードにQRコードを入れ込むことをアドバイスした。次に、1時間にわたるしめ縄製作実演の構成を考えなければならない。実演過程の要所要所で甲斐氏が行う説明の他に、甲斐氏の紹介としめ縄の歴史について説明する導入部分を加えた台本を作成。こちらも日本語版で甲斐氏と協議をしてから英語にしていく。リーフレットのコンテンツも実演の台本も、「日本人と欧州人との常識と知見のギャップを埋めていくこと」に注力した。これは、欧州企業の日本進出時のブランディングと広報の責任者を担っていた際に、徹底していた事柄である。
実演時の私の役割は、実演開始前の場の雰囲気づくり、実演の説明、実演後のバイヤーとの懇談を英語と日本語でスムーズに進めていくことである。展示会ブース内での実演は、オーディエンスが少人数で至近距離にいるため、プレゼンテーションスタイルではなく対話スタイルを採用。全員に順番にアイコンタクトをしながら説明を行った。甲斐氏はシンプルなしめ縄と、しめ縄の技術を応用した祝酉を製作。あぐら座で手と脚を使って縄をなって巧みに成形していく様に、オーディエンスから感嘆の声が上がることもしばしば。しめ縄の歴史的背景などについても理解を得られた。実演終了後には、抹茶などを扱うオンラインショップオーナー、インテリアショップオーナー、飲食店のインテリアデザイナーなどと深い話が弾んだ。欧州では懇談を介した人間関係構築がビジネスの基本であるため、同社の今後の発展に期待が持てる。