
講和の様子

質疑の様子
私は今これを書きながら、改めて友人のありがたさと偶然の不思議さを感じている。最初に、長くなるが、ABICへの感謝の気持ちを込めて、これまでの経緯を記したい。2017年に仕事を退き、「何かボランティアを」とぼんやり考えていた。たまたま会社の同期でABIC会員の鈴木重則君と会う機会があり、勧められて2020年に入会した。しかし、コロナの影響でただ時間だけが過ぎた。ようやく世の中が動き始めた頃、ABICより「日本語教師養成講座(2022年度上期)」の案内があった。海外駐在では家族も含めて現地の方々に大変お世話になったので、そのご恩返しができるかとの軽い気持ちで受講した。授業は良い教師、良い仲間に恵まれて楽しく、充実した学びができた。
2022年9月に修了後、早速地元の日本語ボランティア団体に連絡すると、たまたま欠員が出たばかりで、すぐに活動を始めることができた。また、2023年春にはABICから声をかけてもらい、ABICがお台場の東京国際交流館で運営している「日本語広場」の講師を務めることになった。ぼんやりとした「何かボランティアを」が、ABICのおかげで突然リアリティを持って動き始めた、自分でも驚きの1年であった。
さらに、2024年9月のABICの会員懇親会で、これも会社の同期でコーディネーターの増井哲治君と出会い、「昔取り組んだプロジェクトファイナンス(※)についてなら何か話せるよ」と言ったことが、わずか3ヵ月後の12月に中央大学経済学部 近廣昌志准教授の金融論ゼミでの講話につながった。
講話のタイトルはすぐに「プロジェクトファイナンス(PF)概要」に決まった。しかし、引き受けてはみたものの、まったく初めての経験であり、学生に間違ったことを伝えるわけにはいかないと緊張した。昔を思い出しながら、参考書を引っ張り出して、パワーポイントにまとめていった。分かりやすくかつ飽きないように表やイラストや動画を入れ、色使いにもこだわった。中身をまとめるよりも表現の方に労力がかかったのは予想外であった。また、プロジェクトファイナンスの用語や概念は英語をそのまま使うものが多く、学生にどうかみ砕いて伝えるかも難題だった。「日本語広場」での「やさしい日本語をつかう」 経験が思わぬところで役に立った。
いよいよ当日、2コマ(2、3年生)のゼミで講話を行った。学生たちは私の話を真剣に聞いてくれ、質疑も活発に行えた。ゼミ教室という限られた空間に、自分がとうの昔に失った若さが持つエネルギーが満ちていて、終わってほっとすると同時に何ともいえないうれしさが込み上げてきた。
これをきっかけに、近廣准教授が非常勤で教えておられる立教大学と本務の中央大学の大教室でも同様の講話を行った。毎回、任意提出のスリップを配布して、講話の講評(6項目×5段階評価)、質問、意見、感想を書いてもらった。回収総数122人で、質問35個、意見5個、感想84個であった。質問、意見は的確なものばかりで、回答やコメントを作るのが楽しい作業だった。最近の学生は授業の出席率が高く、課題の取り組み姿勢も真面目と仄聞していたが、それを実感できたのは大きな収穫だった。
仕事を退いた時は今のような展開をまったく想像もしていなかった。さまざまな機会を与えてくれたABICに改めて感謝するとともに、これからも友人と偶然の機会を大切にして年を重ねていきたい。
(※)新事業の将来の収益や資産のみを返済原資とし、事業の出資者は借入金の返済義務を負わない融資の方法