
大学奨学生とご両親、ABIC PTメンバー
(三井物産での奨学金授与式にて、左から2人目が筆者)

4人の第1期奨学生
2025年度より開始した在日ブラジル人への大学奨学金制度(給付型)の運営を、三井物産株式会社からABICが業務委託され、私たちブラジル教育支援プロジェクトチーム(以下、PT)がその業務を担当している。この制度は、三井物産がブラジルで幅広く事業を展開する企業として、日伯相互理解の深化と在日ブラジル人コミュニティーが抱える課題の解決に向け、優秀な奨学生を育成・支援することを目的としている。以前から行ってきた在日ブラジル人学校(小・中・高校生)奨学金制度を大学生まで拡張し、一気通貫体制を確立して、日本はもとよりグローバルに活躍できる高度人材を育成・支援するものである。
三井物産は2024年のはじめより当制度の設計に入り、三井物産の担当者とABICのPTメンバー5人による幾多の議論を経て、同年9月に制度を公表し、募集を開始した。早々に学生からさまざまな問い合わせを受け、上々の滑り出しかと思われたものの、その後は動きがなくなり、PT内では「在日ブラジル人には大学進学希望者はあまりいないのではないか」との一抹の不安もよぎった。実際に、他のNPO法人などから「大学進学へのモチベーションや、日本への期待値は低い。専門学校への進学者が多いのでは?」などの意見も聞かれ、不安はさらに増幅する始末であった。
それでも、いくつかのNPO法人を通じた公立・私立高等学校、在日ブラジル人学校への周知活動を強力に推進し、新たなNPO法人に働きかけるなどのアプローチを実施。公益財団法人国際交流協会などを通じた情報発信にも努めた結果、これらの対策が功を奏したのか、在日ブラジル人を購読者にもつポルトガル語の雑誌などに取り上げられるなど、着実に認知度が高まっていることを実感できるまでになった。
PT内では当初から「学生は忙しいからギリギリまで申請してこないだろう」と予測していたが、これがまさに的中したと判明したのは12月に入ってからのことだった。
記録によると、奨学金希望者からの50件の問い合わせのうち、実に7割近くは12月に入ってからであり、採用者4人の10倍以上もの申請のほとんどは1月31日の締め切り目前にPTに届いたものだった。さらにそのうち10通を超える申請が、紙の書類で締め切り当日にまとめて郵送で届き、その申請書類をPDFに仕上げてPT内で共有する作業だけでも相応の労力を要したのが実情であった(その実態を踏まえ、2026年度申請はPDF添付のメール提出のみに変更した)。
初年度としては、最終的に41人の申請者を集められたことは成功といってよいと思う。全ての申請書類を読み込み、書類選考で13人を一次選抜しオンラインで面接、最終選抜を行った。そこで制度の趣旨に合致し、今後一緒に活動できる人材を選定し、三井物産・ABIC合同の選定委員会による厳正な審査を経て、採用者4人を全会一致で決定した。
第1期奨学生の4人全員が女性であったのは全くの偶然である。人柄はもちろんのこと、そのモチベーションの高さは素晴らしく、それぞれが思い思いの専門性を大学で身に付けようとする傍ら、学外ではイベント活動や多文化共生活動を通じて在日ブラジル人の後輩たちのモチベーション向上をはかり、さらに成長しようとしている奨学生の姿を見て、誇らしく思う次第である。
9月に入り、2026年度の申請を受け付け開始。初年度の経験・ノウハウを生かして、優秀な人材を採用したいと思っている。そして、4年後には最大16人の在日ブラジル人大学奨学生と常に向き合っていくことになる。PTメンバー一同、一致団結し、重要プロジェクトの運営に尽力していく所存である。
なお、PTメンバー5人は全員が三井物産OBかつブラジル駐在経験者であり、ブラジル人の文化・習慣などを熟知している。三井物産と共に本奨学金制度を盛り立て、誠心誠意運営することが、在日ブラジル人の支援、ひいては日伯友好の一助、架け橋となると強く信じている。