活動会員のレポート

地域の力と創造をつなぐ―小田原箱根商工会議所と連携した中小企業支援の成果
〜エストンラボラトリ社展示会支援の軌跡〜

伊藤 いとう 精二 せいじ (元 ソニー)


小田原箱根商工会議所の共同出展ブース
来場者対応中のエストンラボラトリ社 東代表(右端)

「英国の伝統的スタイリング」と
「小田原箱根の寄木細工」融合の木製模型モデル
https://craft.eston.jp/

きっかけは商工会議所からの1件の求人情報
 ABICは、小田原箱根商工会議所(神奈川県)と連携協力に関する協定書を締結し、地域中小企業の経営・販路拡大支援を進めている。その一環として、2024年9月に同商工会議所経由ABICよりエストンラボラトリ社(南足柄市)からの求人情報への応募打診が届いた。同社は木製模型の企画・設計・販売を手がける企業で、新商品として英国の名車「ケータハム セブン」の市場投入を企画しており、2025年2月に開催される「テクニカルショウヨコハマ2025」への出展を控え、展示ブースの演出や効果的な商品展示・訴求方法について専門的助言を求めていたことが支援の端緒となった。

連携で生まれた「地域ならでは」の展示演出
 地域企業の発展をサポートする小田原箱根商工会議所 経営支援部 小林課長とのWeb面談での出会いから、選考を経て支援チームに参加。展示会出展の企画・実施に向けた支援がスタートすることとなった。2024年11月から翌年1月にかけ、同商工会議所での対面協議、e-mail交換にて、目標、現状、課題、日程の共有化に始まり、展示レイアウト、来場者導線設計、ブランド訴求方法など、議論と検討を重ねた。特に同商工会議所からは、過去の展示会で見えた課題への解決策として「地域性を生かした差別化の訴求」が要望され、小田原箱根の伝統的工芸品である「寄木細工」 と エストンラボラトリ社の「木製模型」による「地域の技と匠を融合させた創造的プロジェクト」という挑戦的な企画へと発展した。
 企画においては、同社の東代表からの工数やライセンス上の制約を尊重し、また、同商工会議所からの出展上の制約・注意事項などを踏まえ、私からはソニーでのロボット展示経験から音・映像でのキャッチ効果演出のためのプロジェクションマッピングやAIナレーション導入などのアイデアを提案した。多くを議論させていただいたが、その過程においては、挑戦的課題解決の実現に向けて合意されたPERT図(※)による進捗管理により、大きな抜け漏れもなく本番を迎えることができた。

テクニカルショウヨコハマ2025での反響
 2025年2月、「テクニカルショウヨコハマ2025」において、エストンラボラトリ社は小田原箱根商工会議所の共同出展ブースにて新規の木製模型×伝統工芸を発表。英国の伝統的なクラシック・スタイリングに寄木細工を取り入れた異彩を放つデザインは多くの来場者の関心を集め、横浜ケーブルビジョン株式会社による番組取材・商品紹介につながった。さらに、ホテル業界に販路を持つ企業からの商品の取り扱い、共同商品化の打診や、箱根寄木細工店との連携なども進展。展示会を通じ、東代表は「自社製品の魅力を外部から再発見できたことで、今後の製品開発や販路拡大へのモチベーション向上に大きな効果を得た」との感触を語られていた。

継続的な地域支援への一歩
 エストンラボラトリ社は企画・設計・販売を行う木製模型メーカーとしてさらに独自性を高め、地域との連携による新たな価値創出の実現に向けて取り組んでいる。現在、同社は2026年の出展を見据えた製品開発に取り組んでおり、今回の本プロジェクトが同社の成長に貢献できたのではないかと考える。
 小さな出会いから生まれたこの事例は、単なる出展支援にとどまらず、ABICと商工会議所の協働による、地域文化と企業の創造力を掛け合わせた「地域と企業の共創による継続的発展支援」の一つの形といえよう。今後も地域中小企業の経営・販路拡大支援に微力ながらも貢献していきたい。

(※)プロジェクトの工程管理に用いられる手法で、各作業の依存関係をネットワーク図(PERT図)で可視化したもの。