活動会員のレポート

化学系ベンチャー企業で共に働く

田子 たご ひろし (元 三菱ケミカル)


つばめBHBにて

当社アンモニアプラントの3Dモデル

はじめに
 2017年に私は40余年務めた総合化学会社をリタイアした。入社時にこの職を選んだのも「事業を通じて、異文化交流をしたい」が理由であったので、在職中は国内での仕事をしつつ機会があれば海外での仕事も積極的に担当し、反省することもあるが、全般的には満足な会社生活であったと思っている。
 リタイア後も自分の知見や経験を生かして海外と関係する活動の機会を持ちたいと、2017年11月にABICのメンバーに加えていただいた。その後具体的な機会を求めて、大学講座講師の勉強会や企業からの講師派遣要請への応募なども何回か試みたが、実際の活動には至っていなかった。
 2021年3月にABICから「横浜の企業から社外取締役の紹介要請がある」とのご連絡を頂き、会社の内容を見ると「新しいプロセスで画期的なプラントを世界に売り出そうとしている」化学ベンチャー企業であり、キーワードは「触媒・化学プロセス開発」「プラント建設・操業」「世界展開」と私が現役時代に励んでいたこととマッチしていた。早速応募し、何回かの面接を経て、まずは顧問として、その後に社外取締役として仕事をさせていただくことになり、現在に至っている。

会社紹介 https://tsubame-bhb.co.jp
 つばめBHB株式会社は2017年4月に発足し、新たに発明した触媒によりアンモニアを既存技術より低温度・低圧力・小規模で製造する技術を持っている。これにより小規模オンサイト型のプラントを世界中の必要な所に供給して環境・食糧問題を解決し、持続可能な社会の実現に寄与することをVisionとしている。

現状
 前述のような技術とVisionを持った当社への世間の注目度と期待は極めて大きく、世界各地の環境・食糧問題などのフォーラムからしげく招請を受けており、多くの会社との事業協力も進めている。また商業用プラントの引き合いも多数頂いており、その中で何件かは成約している。
 現在多くの引き合いへの対応と、成約した案件の順調な完成、さらには一層の技術のレベルアップ等のために、全社員が一丸となって頑張っている。そのため仕事量は月ごとに増えて、常に人手不足の状況にあり、毎月のように新メンバーが加わり、2017年の社発足時に2人であった社員が2020年には約30人、現在では70人超と急成長している。
 メンバーは、当社のVision・Mission・Valueに共鳴し、それまでの職場では得られなかった働きがいを求めてきており、それぞれ専門の能力が高い人が多く、彼ら彼女らの熱意とバイタリティーには頭が下がる思いがする。
 しかし、この集団にも課題はあり、それは主に次の2点だと見ている。
 1点目は新しいことに取り組む中での成功または失敗の経験が少ないこと。これは日本の化学企業に共通する課題であり、1980年代以降、新技術・新プロセス・新事業の立ち上げを経験する機会が残念ながら少ないことが影響している。
 2点目は各人がさまざまな企業の出身や大学の研究室の出身で互いに文化の相違があり、技術面の細かな点について見解の不一致が生じ得ることである。
 このような課題にも私の出番があると考えており、本来業務の執行サイドの監督に加えて、日常業務に関しても機会に応じて自分の成功・失敗体験からのアドバイスを心掛けている。

今後
 今後の課題は成約の積み上げ、成約案件の順調な完成と稼働、そしてさらなる技術力向上である。成約案件が順調に稼働し、さらに多くの成約につながり、その結果として、多くの「つばめ」のプラントが文字通り世界に羽ばたくことを楽しみにしている。
 ABICのおかげで、この素晴らしい機会を得られたことにこの場を借りて改めて心からお礼を申し上げる。