活動会員のレポート

カンボジアで思うこと

垣下 かきした 義雄 よしお (元 日本電気)


スタッフに誕生日を祝ってもらう

カンボジア健診センターのスタッフ一同
(後列右から3人目が筆者)

 私は、35年以上にわたり勤務したメーカーで入社以来海外事業に携わり、合計5ヵ国15年以上の海外駐在を経験した。得難い経験になったと思っている。定年の足音を聞くにつれ、なんとかこの経験を内外を問わず次世代に伝えられないかとの思いを強くしていた。そんな中、元上司から紹介を受けABICに登録した次第である。ある日、ABICからの紹介の中に、偶然、公益財団法人結核予防会カンボジア健診センター責任者の公募案内を見つけた。募集要項によると、英語堪能、海外における経営管理経験、また、医療業界での勤務経験という条件があり、自分の経験に合致すると思い早速応募した。幸いにも採用いただくこととなり、2022年8月に首都プノンペンに赴任した。
 結核予防会は日本で戦前から結核予防を進め、その知見を基に海外でも活動を行ってきた財団である。カンボジアでも長くJICAなどと協力し結核予防活動を行ってきた。内乱の混乱期を経て社会が落ち着きを取り戻すにつれ、カンボジアでも生活様式が変化し、今後生活習慣病が増えることが予想された。このため、同財団はカンボジアの人々の健康増進には予防医学に重点を置く健康診断の普及が不可欠と考え、2019年に、プノンペンで良質な健康診断の提供を目的とする結核予防会カンボジア健診センターをオープンした。
 赴任してみるとプノンペンは予想に反して近代的な都市が広がっており、ポルポト時代のイメージが残っていたせいか、これはやや予想外であった。実際にセンターに着任し活動を始めると、ふむふむと思うことばかりであった。カンボジアは仏教に根ざした国であり、年長者には敬意を持って接してくれる(年寄りの役得)。人々は素直で従順、控えめでおとなしいとの印象である。間違いなく好印象であったし、これはカンボジアの人々の美徳である。だが、裏を返しうがった見方をすれば、やや積極性に欠け、従順であるが故に主体性に少し欠けるように感じた次第。そこで改めて考えたのは、カンボジア人職員の美点をさらに伸ばし、センターを運営していきたいということであった。具体的に言えば、健診センター独自のミッションを掲げ、そこに向かって全員で一体感を持って取り組みたいということである。そこで、職員全員参加で、自分たちがありたい姿を議論してもらい、健診センターのミッションを策定した。また、一体感を高める試みとして、自分自身の情報発信に努め、職員間のコミュニケーション向上を図ることはもとより、極めてべたな取り組みだが、朝礼、職員誕生祝い、社員旅行などを始めた。誕生祝いについては、職員の誕生日をひそかに調べた。とはいっても、内戦時代の名残か出生届け自体があやふやなため、人事上の書類と実際の誕生日が違うなどという驚くべき事実に遭遇したりした。ただ、最初にサプライズでバースデーケーキでお祝いをした時の職員の驚きの笑顔は忘れられない思い出になるであろう。策定したビジョンは「日本標準の品質と信頼ある健診サービスを通じ、保健医療教育と早期診断により人々の健康を増進する。カンボジアで最初に思い起こされる健康診断センターを目指す」である。拙いかもしれないが、職員の思いが詰まったビジョンであると思っている。このビジョンの実現に向け、職員と共に一丸となって取り組みたいと考えており、これは冒頭申し上げた私の経験をこの地に残す道であると信じている。