活動会員のレポート

日本語講師とJETRO

  広瀬 ひろせ 恵一 けいいち (元 伊藤忠商事)


社員研修のパーティーで受講者と共に

 2023年10月、ABICコーディネーター(CN)の竹原氏より、勤務先であった伊藤忠商事の現地社員向け日本語講座を担当しないかとの打診を頂いた。ABICの日本語教師養成講座第25期を受講してから4年、コロナ禍もあり「日本語教育」からは遠ざかっていたので迷ったが、最終的にお引き受けすることにした。養成講座で諸先生から厳しく指導された授業の事前準備の要領を思い出しながら翌日の授業原稿を作成して、何とか4回の授業を無事終えることができた。養成講座では「日本語で日本語を教える」というのが基本であったが、今回は英語で授業を行ったのでスムーズに進行することができた。1回1時間、計4回の授業であり、その学習範囲は限定されるが、竹原CNが作成した教本に沿って「あいうえお」の発音から始め、最終的に簡単な自己紹介ができることを目標とした。参加者はエクアドル・キト、インドネシア・ジャカルタ、UAE・ドバイの各支店に勤務する現地採用社員で、授業は東京本社の会議室でZoomを使って毎週木曜日の午後3時からスタートした。ジャカルタとドバイは勤務時間中だがキトは午前1時、受講者の熱心さに感心した。短期集中型の授業であったが、今回の授業が将来本格的に日本語を学習してみようと思う切っ掛けになればと、文型・その応用については教本とは別に「文字カード」を作成するなど、「分かりやすい」授業を心掛けた。養成講座で学習した教本『みんなの日本語』にある文法はわれわれが習った学校文法とは異なるが、日本語学習者にとって理解しやすく、また教える側にとっては英語を使うことで文型等の解説がスムーズに学習者に伝わることを今回の授業で実感した。最後になるが、一つうれしいことがあった。2024年1月に伊藤忠商事本社で現地社員研修が行われ、その最終日の打ち上げパーティーに竹原CNと私が呼ばれた。今回の講座を受講した10人もそのパーティーに参加しており、私が担当した3人とその席で会うことができた。彼らのうち今後本格的に日本語を学ぼうとする人が出てくることを期待したい。
 実は、ABICから声を掛けていただいたことがもう一つある。それは2011年にさかのぼるが、ABICより日本貿易振興機構(JETRO)の貿易投資アドバイザー募集の話を頂き応募、その後7年間その職を務めた。さらにアドバイザーを退いた後も、貿易実務・英文契約が専門のエキスパート職を1年、支援先企業の輸出業務をサポートするパートナー職を1年、結局9年間JETRO関連の仕事に携わることになった。アドバイザーの仕事は、貿易および海外投資に関するもろもろの質問について電話・面談によりアドバイスを行うことで、大手企業からの専門的な問い合わせもあるが、多くは中小企業や個人事業者からの相談である。その中には貿易は初めてという相談者もいて、インコタームズや通関手続きなど、その相談内容はさまざまであった。私の担当地域は日本と欧州で、主に輸出入規制、税制、貿易実務、物流を担当した。商社時代に大まかな関連知識は持っていたつもりだったが、相談者からの具体的な質問・相談に対応するため、多少大げさではあるが日々資料と格闘し、新たな知識を積み重ねていく毎日であったように思う。幸いJETROにはアップデートされた多くの貿易関連資料・書籍があり、さらには貿易実務の著書を出している職員も身近にいて、その方から助言を頂いたりして大いに勉強になった。もちろん相談対応では海外での経験を踏まえた実践的なアドバイスも求められる。それにはなるべく自身の自慢話にならぬよう細心の注意を払って話をしたつもりである。9年間相談者のサポートを行う裏方の仕事であったが、時には感謝のメールを頂くこともあり、充実した時間を過ごすことができたと思っている。