活動会員のレポート

教育的な土壌を提供するABICの活動

 アーク・スリー・インターナショナル 留学事業部 特別任用顧問
 ヒラタ・アンド・アソシエイツ 代表取締役社長         平田 ひらた 和義 かずよし


マスクとフェイスガードで 大学の教壇に立つ

講義風景

 2011年5月にABIC活動会員千田昌明氏より連絡があり、ABICが受託する大学講義の代行を急きょ依頼された。大阪府にある追手門学院大学で開講されるオムニバス方式講義の一つで、「TPPを中心とした北米経済を英語で教える」という内容である。私は大学で教鞭きょうべんを執ることは多少あり、以前はカナダ・バンクーバーに住んでいたので英語は得意としていたが、「英語講義」は初めてであった。ましてや通関士資格を保持されている千田氏のように経済や貿易が専門ではなかった。しかし、せっかくの貴重な機会、等身大で自身のカナダ生活体験を交えながら全力で講義に当たった。例えばカナダの銀行で2000年当時、年利5%のボンド(国債や州債)を運用し、米ドルとカナダドルの為替差益に着目していたこと、環境系(今でいうESG)投資信託を通じて最新の世界経済の要素を学び得たという、リアリティを前面に出した講義編成は一定の評価を得たと考える。私の心の中でくすぶっていた教育活動への情熱も、このチャレンジによって火がついたように思う。
 以後ABICからさまざまな教鞭機会を定期的に頂くことになる。2015年に行った兵庫県立西脇高等学校「異文化理解講演」では1学年生徒(400人ほどだったと思う)を体育館に集め、スカイプを使い、大スクリーンで太平洋を隔てたカナダ人とオンライン・ディスカッションを披露し、米国とカナダの比較論を展開した。現在では当たり前となった無料の遠隔コミュニケーション授業も、当時としては画期的だったと考える。また、関西大学国際部では外国人留学生と日本人留学生の合同クラス「Japanese Companies and Industries」を構築させていただき、アカデミックレベルが非常に高い学生とは、クリティカルシンキングを意識した「90分間全員が話し続ける講義」を達成できた。さらに2019年からは四天王寺大学でも英語関係のクラスや「国際関係論」などを担当させていただいている。
 私は20年以上にわたり会社経営を続け、現在は他社の顧問を兼業している(どちらも留学事業)。そのような中、教壇に立つとき、現実社会(ビジネス)とアカデミアの橋渡しが自分の使命ではないかと常に考えている。そして意識しているのは「未来へのまなざし」である。理論をもって過去の事象を分析し、現在を理解し、自分の頭で未来を推論する大切さを学生に伝えることである。国を超え、文化を超えれば両義性のある課題は枚挙にいとまがなく、選択意志(合理的な判断)や本質意志(自然な感情)など多くの物差しを駆使して、「これから私たちがどこに向かおうとしているか」を常に測っていくことが教育の一つの意義だと考え、学習していることと自分たちの社会をリンクさせる意識を学生には常に持ってもらうようにしている。
 もう一つは、激流にさらされている現代社会の認識である。第4次産業革命といわれる「情報が石油に取って代わろうとしている人新生(ひとしんせい)」を迎え、人間の価値観は大きく変わろうとしている。脱炭素の向こう側、つまりタイムリミットのある地球を俯瞰ふかんできれば、かつての「シェア拡大」や「経済成長」が必ずしも成功メソッドではないと疑問を持つことができるかもしれない。約18万年前、新たな食糧を求めてアフリカを離れたともいわれる人類は、その欲望の坂を上り切った転換点にあり今まさに「新たなグレート・ジャーニー」をスタートさせる時ではないか。授業でこのような疑問を学生に投げかければ、驚くほど興味深い答えが学生から返ってくる。かつてのような勢いがなく「安定志向」と揶揄やゆされる「ジェネレーションZ(1990年後半から2000年代終盤までに生まれた世代)」も実はそれぞれに自己実現の種を持ち、水や肥料を適量あげさえすれば、輝く花を咲かせる可能性を秘めているのだ。これからの社会の主役になる学生たちにとって、ABICの活動は正に教育的に豊かな土壌を提供する役目を担っていると確信する。ABICの社会貢献活動に参加させていただき心から感謝している。