活動会員のレポート

初めての活動は小学校での特別授業 ―イタリア現地校での経験談―

  小林 こばやし 正光 まさみつ (元 本田技研工業)


イタリア現地校の教室風景

板橋区の小学校での授業風景

 知人の紹介で、2020年6月にABICの活動会員に登録させていただいた。海外へ派遣される会社員への異文化理解を中心にした赴任前研修を希望していたのだが、同年10月に小学校での特別授業という想定外のオファーをいただいた。
 板橋区の小学校からABICへの依頼は、オリ・パラ推進事業の一環として「世界中の子どもたちの現状を理解し、自分にできることを考える授業を」という6年生を対象とするものだった。
 ホンダ在職中に22年間、4ヵ国(イタリア・カナダ・中国・ドイツ)での駐在経験がある私に白羽の矢が立ったが、かれこれ数十年間小学生とは接していない。的を射た話ができるのか自信もなかったが「チャレンジなくして成長なし」と自分に言い聞かせ、オファーを受け入れることにした。
 授業の中心に据えたのは、30代で初めて駐在したイタリアで、子どもが通った現地校の話。赴任地はローマやミラノのような大都市ではなく、南イタリア東海岸沿いの人口3万5千人の小さな町であった。
 有名な観光スポットなどなく、日本人はおろか外国人をまったく見かけないイタリア人オンリーの地域だ。インターナショナルスクールなどなく、もちろん日本人学校もない。妻と3人の子どもを帯同した私は、学齢小学一年の長男を現地校に入れるしか選択肢はなかった。先生も生徒もわが子以外は全員イタリア人。全ての会話、全ての授業はイタリア語だ。この子の将来はどうなっていくのだろうと悩んでも仕方がないので、先のことは考えないようにしていた。
 自宅での予習復習に付き添う母親も私もイタリア語なんて全くわからないので、子どもと一緒にゼロから勉強するしかない。しかし親の心配をよそに子どもはいつの間にかクラスに溶け込み、友達をつくっていく。その順応の速さ、たくましく生きる力は大人をしのぐものであることに驚きと感激を覚えた。3歳の次男は現地の幼稚園へ。長男よりもさらにスムーズに溶け込んでいく。
 この度の授業では、イタリアの田舎の小学校の様子やウチの子どもがイタリアの子どもとともに学んでいく様子などを生徒たちに話した。彼らが一番興味を持ったのが、日本とイタリアの小学校の驚くほどの違いだ。入学式、卒業式、運動会や文化祭などの学校行事なし。職員室、全校集会、PTA、校庭、プール、図書室、図工室、音楽室、全てなし。日本の学校にあるものがことごとくない。特に「うらやましい!」と声が上がったのは、筆記テストが一切ないこと。そして夏休みが3ヵ月もあること!
 授業の締めには、「皆さんは、外国人・日本人にかかわらず自分と少し違う(異質な)人を受け入れる人になろう!」というメッセージを据えた。
 実は準備段階で家内にスライドを見せると「表現が固すぎる」「ストーリーが難しすぎる」「その漢字は小学校では習わない」など、手厳しい指摘。慌てて全面的に手直しする始末。家内のアドバイスもあって、53人の6年生の集中力を保ったままどうにか45分の授業を終えることができた。
 何か一つでも子どもたちの記憶に残り、海外の生活について興味を持ち、「異質を受け入れる」というフレーズを覚えていてくれたら幸いである。
 余談になるが、イタリアの小学校で5年間学んだ長男は、大人になり就職した会社でイタリア駐在の命を受け、イタリア・トリノでイタリア語で仕事をしている。またカナダ駐在時にも帯同した次男は、カナダの現地高校を卒業した後、一人カナダに残り大学院まで終え、現地で就職し、カナダ人と結婚し、永住権まで取得してしまった。親の海外経験が子どもの人生にこれほどの影響を及ぼすことになろうとは想像もできなかった。
 今後も、自身の海外駐在経験を踏まえて、社会人に限らず幅広い年代の方たちに何かお役に立てるような活動ができれば幸いである。