活動会員のレポート

ビジネス界からアカデミア(学術界)へ 次世代人材育成に向けて

   宮川 みやがわ 正裕 まさひろ (元 伊藤忠商事)


ケンブリッジ大学経営大学院前にて
(2016年英国での在外研究当時)

松阪市との産官学連携プロジェクト(2015年当時、後列中央が筆者)

 商社と自動車部品メーカーで国際ビジネスに携わってきた経験を生かして、ABIC発足当初から大学や公的研修機関で講師として活動してきた。2005年7月にABICの推薦状を頂いて応募した中京大学総合政策学部の教授職として採用が決まり、2006年4月より14年間経営戦略論等の授業やゼミ指導を行ってきた。また、ABICから学部実践科目「社会人基礎力講座」等に講師を派遣していただく際の大学側受け入れ窓口となってきた。ビジネス界からアカデミアに転じたことで当初は戸惑うことも多かったが、関係各位の支援を得て勤め上げ、2020年3月末に大学を定年退職した。これを機にアカデミアでの活動経緯やABICへの期待等について紙面の許す範囲で述べたい。ABICで教育関係の活動をされている方のご参考になれば幸いである。
 海外事業会社代表の職務を終えて帰国した1998年に、グローバル経営に必要な知識とスキルを学び直すため、大学院に入学して働きながらMBA(経営学修士)を取得した。そして指導教授の勧めもあって博士課程において「グローバル経営とTQM」の研究に取り組み、2004年3月に博士<国際経営学>を取得した。大学の教授職に就いた経緯は前述の通りであるが、大学では研究、教育のほかに管理業務があり、教務委員長やキャリアセンター委員長、そして大学院ビジネス・イノベーション研究科長等の職務に就いた際には、ビジネス界でのマネジメント経験が大いに役立った。
 高等教育改革の波が押し寄せている教育現場では、大学教員への風当たりが年々強まっていると感じる。指導教科の内容を示すシラバスは学生との契約書であり、教育理念や教育課程との整合性が問われ、その実践度合いや満足度は学生授業評価等によって厳しく管理される。担当する科目は年間8科目30回分が最低ラインになっており、私の場合履修者は概算で年間延べ500人、14年間で7千人を超える学生を教育指導してきたことになる。
 また、2年生から始まるゼミ活動では、理論学修と実践、産官学連携プロジェクトを通じた社会人基礎力の向上を図っており、これまで卒業論文を作成して社会に巣立っていったゼミ生は133人ほどになる。毎年開催するゼミ・フォーラムには、子供連れで参加してくれる卒業生も多く、再会を楽しみにしている。
 14年間の研究成果としては、内外のジャーナル査読論文4本、米スタンフォード大学と英ケンブリッジ大学の客員研究員として調査した結果をまとめて出版した専門書3冊、そしてケンブリッジ大学図書館の蔵書となった英国での研究論文が挙げられる。
 大学は、地域活性化のために智を提供する役割を担っている。ゼミでは、学生が企業との連携を通じて社会に貢献し、OJT効果によって社会人基礎力を向上させる取り組みを毎年続けてきた。地元の老舗枕メーカーと共同開発した携帯枕がグッド・デザイン賞を受賞した5期生、JTB他企業と蒲郡市観光協会との取り組みをまとめて「社会人基礎力育成グランプリ」で発表して経済産業大臣賞を受賞した7期生代表、そして松阪市との産官学連携取り組みを成功させた9期生、彼らの誇らしい顔が忘れられない。
 金融危機や今回の新型コロナウイルス感染のように、影響が瞬時に世界中に拡大するグローバル社会の中で、国・企業・個人はどのように対応すべきかという変化対応力と社会への貢献の仕方があらためて問われている。国際社会での豊富な経験を持つ会員を擁するABICと高等教育機関との連携がさらに強化され、自信と誇りをもって国際社会に貢献できるような若手人材を一人でも多く育成する体制の整備を期待する次第である。