活動会員のレポート

日本語を教えて

  西田 にしだ あつし (元 三洋電機)


タイの生徒たちと(左端が筆者)

兵庫国際交流会館での授業風景(右端が筆者)

 私は2019年1月から、ABIC主催の兵庫国際交流会館での日本語広場で、外国の方に日本語を教えている。  部屋に入ると、「センセー、こんにちは」と元気のいい声が聞こえる。学習者には早くから部屋に来て準備をしている方、学習の時間が終わっても質問を熱心にされる方など、勉強家が多い。年齢も、出身国もさまざま、会館に居住されている留学生だけでなく、館外の方も勉強に来られている。このようにバックグラウンドが一人一人異なるので、それぞれの方の話す内容が多彩、興味深い話し合いとなることが多い。
 教えるといっても、上級者クラスなので、日本語だけでなく、その背景となる日本の文化や風習なども重要なテーマとなり、彼我の文化の違いや共通点などに話が及ぶことが多く、私にとっても大変楽しいひとときである。
 そもそも外国の方に日本語を教えようと思ったのは、少しでも日本で暮らす外国の方の手助けをしたい、という単純な理由からだった。しかし退職後、420時間の日本語教師養成講座を修了し、実際に教え始めてみると、いろいろな課題に直面する。学習者の日本での生活の問題、行政の政策の問題等々、日本語以外の事柄も多いが、最大の課題は、教える側(私自身)の問題である。日本語は何十年も使っているのに、他人に説明しようとすると難しいことも多く、また知らないこともいっぱいある。言葉を教えようとしたら、文化も深く理解していなければならない。日々学習の連続である。
 海外での日本語教育に興味を覚え、海外で教えることに挑戦したことがある。2018年3月までの約1年間、日本語パートナーズ(注)として、タイの学校で日本語を教えてきた。派遣されたのは、タイの東北地方の小さな町にある中・高一貫校。
 そこは本当に素朴な地方で、町にはホテルもレストランもなく、スーパーのある近隣の町まで、バスで2−3時間もかかる所だった。家の周りには、放牧の水牛が草を食み、鶏が駆け回っている牧歌的な風景が広がっている。
 このような地方の学校で日本語の授業をしているというのが感激だった。(学校の方針は、国際感覚を持った人間に育ってほしいので、いろいろな外国語に触れさせたいという趣旨のようだった)
 高校3年生と中学3年生全員(約700人)が週1時間日本語を勉強する。日本語は受験科目でもなく、当地では日常生活で使うことが全くない言語なので、習得してもらうことは結構困難と思われた。従って、勉強はあいさつや簡単な会話を中心にし、できるだけ日本文化に触れてもらおうと、文化紹介に時間を割いた。
 うれしいことに、あいさつは多くの学生がすぐ覚えてくれた。自転車で町の中を走っていると、あちこちから「センセー、こんにちは」という声が聞こえてきた。町では日本人は一人だけ、私の行動が皆に注目されているのでちょっと息苦しいところもあったが、外国の地方で日本語であいさつされるのは、大変うれしいものだった。
 1年間という短い期間であったが、多くの生徒たちが、日本を好きになったり、日本語に興味を持ったりしてくれたことと思う。一方、私自身も貴重な体験をさせてもらったし、いろいろ勉強にもなった。特に、言葉の違う異国で暮らす大変さが身に染みた。
 帰国して日本語を教えることを再開したが、当時の経験をベースに、より学習者のニーズに添った内容を心掛けるようになってきたと思う。
 日本では今後ますます在留外国人が増えてくると思われる。これからも日本語を教えることで、彼らの生活支援を続けていきたいと考えている。また同時に、日本語を教えることを通じて、多くの外国の方と語り合い、異文化に触れることを楽しんでいきたい。

(注)日本語パートナーズ:外務省管轄の国際交流基金が推進している事業で、アジアの学校に、日本人を教師のアシスタントとして派遣するもの。