活動会員のレポート

東ティモールコーヒーについて

  田中 たなか 昭彦 あきひこ (元 三井物産)


日本側PWJスタッフと(右から2人目が筆者)

コーヒー園での収穫風景と子供たち

 2019年9月都内ホテルで開催されたABIC会員懇親会の開会あいさつで岩城宏斗司理事長が、ABICは設立以来20年の節目を迎え登録活動会員数も3,000人に及び、国内世界各地で活発な活動を展開して社会的評価をますます高めているとの話をされた。その中で、当日会場に会員番号187番の設立時の活動会員が出席していると、私の名前が挙げられた。予期していなかったことなので驚いたが、20年前の東ティモールでの活動が懐かしく思い出された。
 独立に向けての国造りの過程で、1998年の動乱で東ティモールの多くの人々が殺りくされ基礎的インフラ、大半の建物崩壊、避難キャンプ生活、子供たちの教育もままならぬ状況であった。復興のため、各国非政府組織(NGO)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等が政権安定復興支援を行っていた。そうした中、東ティモール支援に尽力していた非政府組織(NGO)ピースウィンズ・ジャパン(PWJ大西健丞代表)よりABICに対し、長引いた紛争で荒廃した東ティモールのコーヒー産業復活の可能性についての調査依頼が入った。
 東ティモールコーヒー産業支援に関するABICとPWJとの提携について当時は画期的な出来事として大手新聞紙上でも取り上げられた。「商社とNGOというかつて仇敵」を接近させたABIC宮内雄史事務局長の働きは大きいと日本経済新聞は記載し、朝日新聞も夕刊「窓」で同様の記事が載せられた。
 ABIC活動会員の中からコーヒー商内に長く携わってきた私が選ばれ、2000年10月に現地に派遣されることとなった。同行のPWJ本部員ならびに身の危険を顧みず現地活動を続ける現地スタッフの若者たちと寝食を共にしての現地調査活動は楽しい思い出である。
 コーヒー農園、コーヒー豆精選設備、農園主、生産農家家族、農業大学学生たちとの討論会、既進出コーヒー業者、国連監督指導下の暫定政府関連機関との打ち合わせ、港湾設備、輸出入船舶等々コーヒー栽培、生産管理、流通経路に至る実情をくまなく調査した。
 調査活動を終えて帰国後、まず東ティモールコーヒーの知名度を高めるため、コーヒー生豆を日本向けに輸入し、焙煎加工した有機栽培コーヒー200グラム真空パックがPWJのブランドで日本国内販売が開始された。その後、今日までPWJの絶え間ない努力が続けられている。
 東ティモールコーヒー産業を持続可能なものにすべく、新しい農園の開発、種まき、苗木、有機栽培、生産収穫、精選加工等の指導、生産者組合設立支援、高級コーヒー果実の高値買い取り保証等々を実施。また世界市場に通用する品質向上のノウハウの研究、エキスパート育成のため、日本他コーヒー消費国に現地人材を派遣する等の努力によりPWJコーヒー事業の中心地エルメラ県レテフォホの良質な東ティモールコーヒーに対する国際的評価は高まっており、日本だけでなく米国、オーストラリア、シンガポール、欧州諸国でも飲まれるようになった。
 従来は現地の人々の生活支援として事業に携わってきた業者がほとんどだったが、今では営利目的でコーヒー事業を展開する大企業が参入してきている。さらにPWJは、持続可能な安定産業育成のために老朽コーヒー木の若返り策(カットバック、接ぎ木)を支援、東ティモール首都ディリでのコーヒーロースターズの設立運営も行っており、国内消費者、観光旅行者、海外出張者の土産向けに販売を伸ばしている。コーヒーバリスタ他、エキスパート育成も行い世界市場のスペシャリティコーヒーの地位を確立することを目標に頑張っている。
 これらPWJの発展の中、ABICが初期段階で貢献できたことは幸いである。