活動会員のレポート

一碗のお茶から世界につながる

  東京国際交流館 茶道教室講師、裏千家茶道教授 田中 たなか 和子 かずこ


2019年初釜(前列左から2人目が筆者)

2018年サマーフェスティバル茶道体験教室

 ABICが主催する東京国際交流館での日本文化教室で茶道教室を担当させていただいて、あっという間に16年余りが経った。どのような経緯で関与し始めたのか、全く覚えていない(夫が政策研究大学院大学への中央アジアの留学生のお世話をしていたので、その関係で交流館とのご縁ができたのかもしれない)ので申し訳ないのだが、試行錯誤をしながらもほぼ設立当初からバザーへの協賛茶会、サマーフェスティバルでの体験教室も含め、貴重な体験をさせていただいている。ABICからは山田さん、千野さん、佐藤さん、田中さんら代々のコーディネーターにお世話になっており、当初は茶室のお掃除までしていただいて恐縮した。
 交流館には立派な茶室があり、最低限の道具はそろえて あったが、日本の文化の基礎にある季節感あふれるものがなかったのは残念であった。そうした中、最初の教室は2002年の7月、自宅からも道具を持ち込み七夕の趣向で始めたが、十余名の参加を得てお茶室は満杯になった。短冊に願いを書いてもらって笹竹に掛けた。
 茶道は英語でtea ceremonyと訳されているが、いわゆるセレモニーではない。和敬清寂を根本精神とする「おもてなしの心」とそれへの「感謝の心」のコミュニケーションの場であり、お点前はそのための修錬の手段である。点前を習得するには多少の時間がかかるし、修練には終わりがない。全く無の空間である茶室で床の間に軸を掛け、分に応じた道具をそろえて客をもてなすのだが、本式の茶事では炉に炭を注いで湯を沸かし、懐石料理でお腹を整えてもらった後、濃茶と薄茶を味わってもらう。ここには数寄屋建築、路地・庭園、懐石道具と料理、陶器・金属・竹や木製などさまざまな茶道具が関わる。茶道が日本文化を代表する総合芸術といわれるゆえんであり、限界はあるが交流館でもできるだけいろいろな道具を持ち寄り季節感や日本の伝統を味わってもらえるように努めている。
 たとえばお正月にはお雑煮で新年を祝い、おひなさま、端午の節句、七夕などできるだけ日本の行事を取り入れ、季節感を楽しんでもらう。これまでの教室参加者は世界各国にまたがっており、海外旅行で買ってきた道具を使って茶道の国際性を共に楽しむこともある。英語での説明もするが、最近はやはり中国や韓国の留学生が多いので、毎回床の間に掛ける時季折々の中国の詩の一行や禅語の軸を、たどたどしい中国語で発音して文化の共有を試みる。始めの頃は日本で有名な陶淵明や杜甫、李白らの詩も知らない学生が多かったが、最近は中国でも唐詩なども教えるようになったのか、懸命に詩を吟じてみると唱和して発音を直してくれる人も増えた。中国で消えてしまった抹茶文化と、それに関わる茶陶や美術工芸品を日本が大切に守ってきたことを説明すると、大きくうなずいてくれる。
 交流館の宿命であるが、留学生は短い期間に来ては去っていくので、こうした過程をゆっくり味わってもらえないのが残念であり、日本文化についてもどこまで知ってもらえたか不安であるが、それでも帰国してからメールを送ってくれたり、再来日の際に訪ねてくれたりするのは本当にうれしいことである。ABICの皆さまの国際貢献のご努力を多とするとともに、それに関わらせていただいていることに心から感謝申し上げたい。