活動会員のレポート

大学講師という新しいチャレンジ

  鈴木 すずき 祥子 よしこ (元 レブロン)


講義風景

 2017年初頭にABICの会員登録をした。登録後ABICより最初にあったお話は大学講師の機会だった。私が大学を卒業したのはかなり昔の話だったので、非常に不安があった。しかし、定年を間近に控え、これまでと違った形で社会と関わりを持っていきたいと考えていたことや、ABICの大学講座担当コーディネーターから力強い励ましをもらい、新しいチャレンジを始めることにした。特に、これまで縁あって続けてこられた仕事の楽しさを次世代に伝えることは、やりがいがあると感じた。
 私は過去25年以上にわたり米国企業の日本支社でマーケティングの仕事に携わってきたこともあり、日本語と英語によるマーケティング講座を担当することになった。どちらも複数の講師がオムニバス形式で異なる業界の講義を行うものだが、いずれもグローバルな視点の展開が期待されている講座である。私に与えられたテーマは「消費財マーケティング」。自分の経験をもとに、どんなストーリーにすれば今の学生が興味を持ってくれるのか念頭に置いて講義の組み立てを考えた。
 講義をするに当たり、ABICが開催している「大学講師勉強会」と「英語で授業をするための講習会」の両方を受講した。これは、初めて講師という仕事をする私にとって非常に貴重な学びとなった。とりわけ、Active Learning(注)という学習方法は新鮮だった。これは学生参加型の要素を講義の中に組み入れることによって自発性を養い、講義の理解度や満足度を高めるものである。私が学生の時にはなかった学習方法であるが、学生の数に関係なく取り入れられるもので、これこそがコンピューターを使ったオンライン講義ではできない対面式講義の強みだと思った。
 実は、「大学講師勉強会」に参加した時の私は、日本語の1回目の講義を終えたばかりで、2回目の講義をどうしようかと悩んでいた。1回目の講義では、内容が盛りだくさんの一方的な講義になってしまったため、学生の反応がよく分からず、消化不良を起こしていたのだ。そこで2回目の講義の中に、教えていただいたActive Learningの要素を早速取り入れてみた。講義の途中で身近なトピックを選び、5-6人のグループで考えてもらった。人前で発表すると発言しにくいと思い、私が各グループの意見を聞いて回る形をとった。効果はてきめん。私と学生との距離が縮まったばかりか、学生の授業への参加意識が高まり、一体感のような不思議な感覚が生まれたといっていい。日本人の学生は授業中に声を出すのに慣れていないが、何とか声を出せる学習環境を提供すれば「楽しい」という感覚が「学び」に生まれるのだと実感した瞬間であった。
 次に行った英語の講義でも、新たな展開があった。このクラスは、海外からの留学生や海外経験のある日本人学生の多い、いうなれば授業中の発言に慣れている学生たちのクラスである。グローバルとローカルの視点を理解するために行った「あなたの国で最も飲まれている飲み物は何ですか?」というシンプルな質問に、留学生たちが自分の国の紹介を始めたのだ。想定外の反応だったが急きょ台本を変更し、そのまま、国による文化や習慣の違いをビジネスとしてどう活用したらいいかという議論に進めていった。対面講義ならではの展開であるが、講師にとってはかなりの緊張感もあった。
 このような大学講師という新しいチャレンジの機会を与えてくれたABICに心から感謝している。新しい自分に気付かせてくれた上に、新しいことにチャンレンジする楽しさを教えていただいた。学びは一生であり、楽しいものだと実感した。また、学生からの感想に「面白かった」「楽しかった」というコメントが多かったことが大変うれしかった。これからも機会があれば、学ぶことの楽しさを伝えられるような講義をしていきたい。

(注)学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称