活動会員のレポート

科学技術館の鉄鋼ボランティア活動を終えて

  江川 えがわ 典一 のりかず (元 丸紅)


工作教室の風景

作品

理系女スタッフと(中央が筆者)

 2018年2月に科学技術館から突然連絡があり、この4月をもってボランティア制度を終了する旨の連絡が入った。急な話なので驚いたが、正直言うと最近は活動しているボランティアは私を含めて3人となっており(多い時期は常時7-8人は登録していた)、活動すべき土・日・祝祭日を3人では全てを対応できてはいなかったので安堵あんどした気持ちと寂しい気持ちが半々であった。今後は科学技術館のスタッフのみで対応する由である。
 科学技術館は1964年の開館以来、1996年の大規模リニューアルを経て、鉄鋼連盟のブースも2006年に大規模に改装され現在の姿になっている。私は2009年夏ごろにABICから、北の丸公園内の科学技術館で鉄鋼関係のボランティアの募集があるとの連絡を受け早速応募。直ちに日本鉄鋼連盟および日本科学技術振興財団のスタッフとの面談を経て同年10月から活動に入った。
 活動場所は、科学技術館の4階にある「鉄の丸公園一丁目」と称する鉄鋼連盟のブース内で休みの日に活動する鉄鋼の工作教室であった。私が参加した時には工作教室のリーダーは新日鉄住金出身の方からJFE出身の方に代わっており、その補助役として鉄鋼ビジネスに携わった商社のOB(現役の方もいた)が活動していた。
 工作教室の対象は主に小学生以上(時々中学生も混じる)で、低学年は保護者同伴が条件である。毎回地球の誕生から地球の3分の1が鉄で占められていること、製銑・製鋼・製品・リサイクルなど一連の鉄の知識をビデオで見た後工作に入るが、午前5人、午後5人と参加人数が限られているため、いつも開館直後に定員一杯となる。他の科学館でも先端の科学を披露する施設は多いが、加えて物づくりを実体験できるという意味で大変人気の高い工作教室であった。
 主な工作は次の3種類である。①「鉄板を使って昆虫を作る」:缶ビールから切り出した鉄板を金切りはさみで原形を整え、プレス機(800kg)による加工、研磨、スポット溶接、色付け作業をする。季節により変わるが、「テントウムシ」「チョウチョウ」「カブトムシ」「トンボ」を作る。特に「カブトムシ」は男の子に人気抜群である。②「減摩合金でアクセサリーを作る」:鉄の融点は高く危険なので、220℃が融点の錫主体の合金を溶かし鋳込む鋳物のアクセサリーを制作する。デザインが決まればコルク板に切り込みを入れ最後に金属を流し込む湯口を決める。鋳込んだ後冷却し、予定の形が整ったら鎖を付けて完成である(われわれは金属の溶融と鋳込み、研磨作業があるので大変だが、リピーターも多く子どもの得意そうな笑顔をみると疲れも忘れる)。最後に③「エッチングでステンレス鋼板に絵を描く」:これは特に女の子に人気のある工作である。鋼板(片面は鏡面仕上げ)は子どもの手のひらサイズだが、デザインが決まれば腐食条件を決め(当日の気温と溶液の濃度によるが液温42-43℃で約30-40秒間)塩化第二鉄の溶液に浸け水洗する。腐食に陰影を付ける技法など驚くような才能を持つ子どもに出会うと将来が明るくなるような気持ちになる。
 9年弱の間、休みの日になると天気に関係なく竹橋から紀伊國坂を上り下りしながらの科学技術館ボランティア活動だったが、将来を担う子どもたちが鉄鋼のみならず科学に多少でも興味を持ってくれたのであれば私の活動は成功だったといえるのだが…。
 また、最終日4月7日は鉄鋼連盟の方、科学技術館の幹部、鉄鋼ブースを担当してくれたスタッフが駆け付け、ねぎらいの言葉をいただき大変幸せであった。