活動会員のレポート

東洋大学国際学部グローバル・イノベーション学科講座

  名達 なだち 博吉 ひろきち (元 伊藤忠商事)


東洋大学の講師の皆さんと
(左から久留氏、河﨑氏、筆者、松岡氏、佐藤教授、鶴見氏、齊藤氏、百田氏)

 2017年の春、「文科省のSuper Global University指定を受けた東洋大学がABICによる英語のビジネス講座を開設するが、参加できるか」との問い合わせがあった。当時のABIC齊藤秀久理事長と東洋大学の新設学科準備担当であった佐藤節也教授との対談を機にABICが受託した講座だそうだ。「東洋大学・・ああ、日本人初の9秒台を狙っている桐生祥秀の大学か」と思うと同時に、「ええーっ、本当にSuper Global Universityに!」と驚いた。
 私は母校のOB会役員なので、その文科省指定がいかに価値あるかすぐ理解できた。名だたる多くの大学が喉から手が出るほど欲しい、いわば大変な「勲章」である。ABIC講師陣は、齊藤守氏、鶴見邦夫氏、松岡満典氏、百田功氏、河﨑隆夫氏、久留さと子氏、といずれも経験豊富な実力講師陣であり、第1回講師打ち合わせ会で、私は気が引き締まる思いがした。
 「Multinational Corporations and the Global System」のテーマで、「グローバルビジネス世界とはどんな所か、その中で生き残るために何が必要か」を教えることにした。
 私は、商社で34年間自動車部門を担当し、その後自動車会社に勤めた経験から「Automobile Industry」を担当。「ハイ・リスクで典型的なグローバル産業である自動車業界において、日本企業はどのように主要プレーヤーになったのか、その秘密は一体何か?」をテーマに、12月12日と19日の2コマを担当した。日本人4人、留学生16人と手頃な人数。米国、豪州、スペイン、イタリア、台湾など多彩な国からの留学生が混在して活気ある授業だった。
 1コマ目は、なぜ米国で自動車産業が巨大産業に発展したのかという、自動車産業百年の歴史の振り返りから始めた。後半は、戦後一度消滅した日本自動車産業が抱えていた、①外貨不足、②12社の過当競争、③単純労働を拒否する組合、④高いガソリン価格、⑤深刻な公害問題について説明し、「これら五つの問題の存在そのものが、その後の日本自動車産業を強くした秘密である」という逆説的な結論を、具体的な例を挙げながら解説した。
 2コマ目前半は、「The marketing strategies that saved a Japanese auto company from bankruptcy」というタイトルでのケース・スタディー。私が10年間在籍したいすゞ自動車が倒産寸前から立ち直り、世界トラック主要企業の一員になった過程を題材に、学生に「あなたが当時のいすゞ従業員だったら、どんなマーケティング戦略を発想したか」を問い掛け、議論した。その中で「客の欲しがるものを売るな! 客に役立つものを売れ」という近江商人哲学を紹介した際には、「納得いかない。客の欲しがるものを開発し販売するのがマーケティングではないか」との異論が出て、議論が大いに盛り上がった。2コマ目後半は、電気自動車、自動運転、シェアビジネスが急速に進む自動車産業の将来について議論した。
 今回の東洋大学の講座で実感したのは、大学側の積極的な取り組み姿勢だった。学部の先生たちが講師との打ち合わせや懇親会に出席し、国際学部の目標やABIC講座への希望などを熱く語られた。中でも講座担当の佐藤教授は、講座の全ての講義に熱心に耳を傾けておられたのが印象的で、他の大学では見られない光景であった。
 桐生が9秒台を実現し、新年の箱根マラソンで東洋大学が往路優勝、総合2位になった時、「これが、大学の勢いというものか!」と、私は大いに納得した。