活動会員のレポート

2020年オリンピック・パラリンピックを迎える小学生

  工藤 くどう あきら (元 三菱商事)

 2017年12月7日、国分寺市立第十小学校の担当教師が、騒然とする80人ほどの4年生を一瞬で授業モードに変えた後、私は教壇に立った。全生徒の強い視線が一斉に向けられ(大学とは全く違う)、今回は初めての趣向も伴うので緊張した。「実は、私の孫を連れてきています。質問を皆さんから受ける時まで、本棚の後ろで待ってもらっています」とあいさつすると、「幾つなのかな、かわいいかな、早く会いたい」との大きな反響でざわついたが、30分でパワーポイント(PPT)によるプレゼンを終わらすべく急いでタイトル「パラグアイを知ろう」の説明を始めた。
 「パラグアイとはどんな国か、生徒たちの関心と理解を深めてもらう」という指示を受けた時には、ブラジル、メキシコなどのもっと大きな国について紹介したいが、なぜパラグアイかと疑問に思った。しかしながら、ABICコーディネーターの宮内雄史氏から「東京都教育委員会では、オリンピック・パラリンピックに関してさまざまな角度から学ぶ教育事業を推進しており、その一環として生徒が国際理解を深めるため、外部講師を招き世界中の個々の国についての授業を行うプログラムがある。ABICも講師紹介組織として登録しており、学校からの要請を受けて講師紹介するもので、今回はパラグアイに絞って説明してほしい」との説明で合点した。そこで、人口が千葉県より少し多い小国パラグアイだけを紹介するには10分もあれば済むので、同国の小学校と小学生の事情を詳しく説明することにした。現地校に子息を通わせている方に情報提供の協力を得て作成した原稿を持って、事前に先生のアドバイスを求めた。そこで指摘を受けたのは、コロンブス新大陸発見から今日に至るパラグアイの歴史を全て削除することだった。小学校4年生では歴史の概念を学習していないとの説明があり納得した。
 30分のPPTによるプレゼンテーションを終えた。次に残された15分の質疑応答の時間に入った。「約束した通り、孫を連れてきます」と言って本棚の裏に入り、腹話術の相棒「かず君」(小学校2年生)と一緒に戻った。事前に説明していなかったこともあり生徒たちはびっくりし興奮する中、相棒が自己紹介し最初の質問をした。その後は、相棒が教室のムードを和らげてくれたこともあり、生徒たちから次々と質問が寄せられた。答えに窮すると、相棒が「お爺さんは知らないけど、僕はこう思うよ」といったやりとりも加えて、授業を終えた。学校のブログに、「22年間南米に住んでおられた方に来ていただき、パラグアイの位置や、子供たちの様子など楽しく、分かりやすく教えていただきました。最後は、子供たちの質問に対し、腹話術を用いて楽しく答えてくださいました」と記載されている。
 日本の国際化に関わるABICの活動の中で、オリンピック・パラリンピック開催準備に貢献ができたことは大変うれしく、さらに腹話術の出番を得たことは非常にありがたかった。笑いを中心に腹話術で高齢者施設、養護施設などでボランティアを始めて約1年半が過ぎたが、若い世代に希望を与えるツールとしても生かせるとの自信を得たことは大きな喜びである。このような機会をつくってくれた国分寺市立第十小学校とABICに感謝するとともに、年齢制限で大学の講義の機会がなくなったが、引き続きABICの教育分野での活動に参加したいと願っている。