活動会員のレポート

アセアン諸国向け日本語パートナーズ

日本語教師養成講座コーディネーター

 日本はアセアン諸国との文化交流促進のため、独立行政法人国際交流基金(以下「基金」)が中核となって予算300億円の諸事業を推進し、その一環として2020年までに、3,000人の日本語教師を派遣することとなり、日本では珍しい政治主導の大型文化交流事業として注目されている。
 ABICは基金から協力要請を受け、事業の素案段階から意見交換の機会を持ち、3月12日に設立された「日本語パートナーズ派遣委員会」の委員8人の1人に関 伊知郎ABIC理事・事務局長が就任した。
 派遣計画は、第1年度の2014年は約100人、2年目が約300人、それ以降は各年約525人で、派遣先は主要派遣国のインドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムでは中等教育機関(日本の高校に相当)、その他のアセアン6ヵ国では高等教育機関、大学、民間学校等となっている。
 日本語パートナーに期待される役割は1つではない。べトナムのように日本語教育専門家の派遣を要望している例外はあるが、その他の国向けでは日本語教育経験を前提とせず、現地の日本語教師や学習者のパートナーとして、授業や会話の相手役となるとともに、教室内外で日本語・日本文化紹介活動を行い、現地の言語や文化に接し、アセアン諸国と日本との懸け橋となることを目指してほしいとされる。2014年秋から6ヵ月または10ヵ月の間インドネシア、タイ、フィリピンに派遣される60人の募集は既に締め切られた。
 この事業は2013年1月インドネシアで安倍首相が、アジアの多様な文化・伝統を共に守り育てることをアセアン外交5原則の1つとして表明したのが発端となった。具体的な施策検討のための『アジア文化交流懇談会』(座長:山内昌之東京大学名誉教授)第1回会合が4月に開催され、9月末にまとめられた提言の柱の1つが日本語学習支援となった。また、中国が世界各地690ヵ所で『孔子学院』を設置して中国語と中国文化普及に注力しているように、日本の施策も大胆であるべきとされた。
 また同じ時期に『海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会』(座長:木村孟元東京工業大学学長)が発足、産学協同で議論を重ね、2013年12月に日本語の海外展開に関する報告書を外務省に提出した。そこでは海外への日本や日本語の魅力の発信が早急に対応すべき課題とし、日本語教育のIT化、Eラーニング講座開設、テレビ会議による日本語教師研修、存続の危機にひんしている海外中高教育機関の日本語講座への財政支援などが提案された。
 日本語パートナーズ事業は、一定の成果を挙げているJET(英語教育補佐とスポーツ指導のための外国人招聘)プログラムの逆バージョンだが、最大の懸念材料はパートナーの確保であろう。潜在的な日本語教師の数はあっても、労働市場の表に出てきてない。新たな教師養成は無論大事だが、潜在的日本語教師をいかに掘り起こすかが緊急課題と思われる。
 日本語パートナーズ事業を担う国際交流基金は外務省所管の独立行政法人で広範囲の文科芸術交流事業を進めているが、海外での日本語普及や日本研究・知的交流でも重要な役割を担っている。お台場の東京国際交流館でのABICの留学生支援事業で関わりのある日本国際教育支援協会の重要な業務は、日本語教育能力検定試験と今や受験者100万人にも及ばんとしている日本語能力検定試験だが、日本語能力検定の海外での試験は基金との共催で、試験は基金が実施している。また、基金は北浦和の『日本語国際センター』などで、日本語教材の開発や外国人教師の養成・研修などを行っている。基金がこれまで海外に派遣してきた日本語教師は年間150人ほどで、そのうち専門講師は100人ほどといわれている。