マンスリー・レポート No.43 (2004年7月)
活動会員のレポート
  アルゼンチン大来財団での国際協力活動
    元 JICAシニア海外ボランティア
現 大来財団日本評議委員会事務局長
斉木 茂治(元 三菱商事)

 筆者は2002年4月から2004年3月までの2年間、アルゼンチン(以下:ア国)向けのシニア海外ボランティア(以下:SV)第一号、ア国大来財団のアドバイサーとして派遣され2004年4月に帰任した。以下、派遣の背景や現地での活動結果につき記述する。

アルゼンチン大来財団(Fundacion Okita=FO)とは

 Fundacion Okita(以下:FO)は日本で最初のグローバリストで日本外交・国際協力の父とも謳われた元外務大臣 大来佐武郎先生を記念して設立された世界で唯一の財団である。1991年に経済関係を主体とする日ア両国相互関係の強化を目的にア国産官学の日本と関係の深い団体・有識者により設立された。

 大来先生は1985〜86年に(財)国際開発センターのチームを率いJICA経済開発調査を実施、その調査レポートは、ア国産業の活性化と輸出振興に重点を置き、経済社会開発に関する基本的助言を与えるもので通称「大来レポート」としてア国の経済バイブルとも称えられ1990年代における歴代の政権により経済復興の基本方針として活用された。

FO事務所にて大来佐武郎先生の写真をバックにFO若手メンバーと(左より2人目が筆者)

 筆者は、当時ア国三菱商事に駐在、在亜日本商工会議所を代表していたので、ア国を訪問された大来先生に接する機会を得、素晴らしいグローバリスト・大人たいじんの風格とお人柄に心服し、アルチョウロン現FO理事長・下院議員(当時ア国農牧協会会長)と共にFOを設立、初代第二理事長を務めた。

 FOは「大来レポート」の普及・フォローアップに始まり、JICAアルゼンチン事務所の絶大なる支援の下、1994〜96年実施の通称「第二次大来調査」(課題:ア国から東アジアへの輸出の拡大並びに同地域からの投資の促進)への協力や後述2項の調査等の実施、フォローアップを主体とした自助努力による運営・活動を続けている。

ア国経済危機の真っ只中における活動

 ア国は2000年に入り未曾有の経済危機に陥り、2001年には遂にデフォルトという最悪の状態に至り、日本企業は債権の回収や現地拠点の規模縮小・撤退という後ろ向きの対応を余儀なくされた。

 当時、日亜経済委員会(委員長:佐々木幹夫三菱商事会長、事務局:日商・東商、以下:日亜委)の基本戦略研究会総括リーダーを務めていた筆者は、かかる時期こそがFOを拠点としア国の危機克服を支援するために活動する絶好の機会ととらえ、現地へ乗り込んだ。

 従って、その主たる活動は広範囲かつ多岐にわたったが、大別すれば以下の3項である。

  1. FOと日亜委(基本戦略研究会現地代表役)の活動を通じ農産品、鉱産品等の対日輸出促進を図る。
  2. FOがJICAから委託を受け国連ラテンアメリカ経済研究所(ECLAC)との連携で実施したア国経済危機対応緊急パッケージ調査・提言作り(主たる目的は外貨獲得のための輸出促進)への参加・協力。
  3. 第一号SVとして(2年間で30名に急増した)SV中の貿易関係SV間の連携強化。

 結果としては、1項については2003年6月に柑橘類(レモン、オレンジ、グレープフルーツ)の対日初輸出に成功。また日亜委(含むJETRO)との連携により有機食品や鶏肉の対日輸出促進でも顕著なる進展を見た。ちなみにア国は世界の4分の1、南半球の3分の1にあたるレモンを生産し、その対日輸出は(生鮮牛肉と並び)10年来の悲願であったので、SV/日亜委活動の成果としてア国側に大いにアピールすることができた。

 また、2002年8月にFO/JICA/JETRO/ア国外務省/亜日経済委員会共催で第二次大来調査およびJETRO対日輸出促進プロジェクト発表のセミナーを開催、筆者もスピーチを行ったが、従来縦割り制度により海外でも別行動をしていたJICAとJETROが共催でセミナーを実施したことは、ほとんど例を見ない画期的な出来事と自負している。

ア国地方都市にて
FO/JICA/日本大使館セミナーでの筆者スピーチ(右) 輸出物産展での有機ワイン試飲

 2項の緊急パッケージ調査も2003年3月に完了し、引き続きFOがJICA/日本大使館と共同で同レポート・提言の普及のためア国各地にて実施したセミナーで講演、また、調査結果を日亜委のアクション・プランにも導入すべくワークした。幸い現在ア国の経済危機は最悪の時期を脱し、回復傾向にあることは喜ばしい次第である。

 3項のSV間の連携については、輸出促進部会の座長を務め、その効果がJICAやSV間で評価された。筆者はJICAへの帰国報告に際し(同部会での共通の悩みや要望を踏まえ)SV制度の一層の充実・発展のためにABICやJETROとの連携を深め (1) 特定配属先ヘのチーム派遣や (2) SVの受け皿機能(日本・アジア市場情報の提供)作りを提言した。

JICA/ア国外務省共催のJICAの活動を発表するセミナーならびに日本大使・ア国外務大臣口上書交換式(2004年3月)
会場風景 口上書交換式

 帰国直前の2004年3月末にア国外務省の伝統あるサロンで永井大使とビエルサ外務大臣との間でJICAの草の根無償供与にかかる口上書交換式が行われた際、ア国政府高官をはじめ関係者多数出席の下、JICA/ア国外務省共催のJICAの活動を発表するセミナーが盛大に開催されたが、筆者はSVを代表し、カウンターパートのFO代表と共にSV活動の成果につきスピーチをする機会を得た。これはJICA/日本大使館とア国政府の双方から筆者の活動の成果が認められたからこそと受けとめ満足感を覚えた次第である。

日ア間のパイプは相変わらず細く狭い

 以上、限られた紙面ではFOの紹介をはじめ筆者の述べたいことの10分の1ぐらいしか書き記せぬことは残念だが、最後に、ア国は世界でも有数の食料・エネルギー・鉱物資源大国で欧米・中南米諸国との歴史的な関係に加え、特に最近中国との急速なる関係緊密化が目立つところ、日ア間のパイプは相変わらず細く狭いと言わざるを得ない。

 筆者はかかる現実を踏まえ、日本の産官学が結集して少しでも狭いパイプの流れを良くするよう引き続きFOの日本側支援任意団体である大来財団日本評議委員会(世話役:河合三良(財)国際開発センター会長、事務局:同センター内)の事務局長として努める所存である。

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