マンスリー・レポート No.39 (2004年3月)
活動会員のレポート
  アルゼンチン連邦鉱山局での支援活動
    JICAシニア海外ボランティア アルゼンチン連邦鉱山局アドバイザー 土山 勝實(元 丸紅)
アンデスの麓 メンドーサ・ベントナイト鉱床調査で 鉱山社長に鉱床の成因説明

 2002年10月30日からJICAのシニア海外ボランティア(以下SV)としてアルゼンチン連邦鉱山局に2年の期間で派遣されている。

 アルゼンチンは、1990年代初めに鉱山開発に関する諸制度を改善した。これにより同分野への海外からの投資が活発化し、金属鉱物の生産および輸出が急速に拡大している。一方、非金属鉱物についてはその多くが中小鉱山会社によって経営されているため、合理的生産活動が行われておらず、また、生産物の安定的な販売先を確保することに苦慮している。同国には約900社の鉱山会社が存在し、2万数千人の鉱山労働者を抱えているが、企業数の98%、労働者の約60%は中小零細企業に属する。

 特に昨今の経済不況の中にあって鉱山局当局は、非金属鉱産物の市場開発(輸出を含む)を図り、中小鉱山の経営の安定化により経済成長および雇用の確保・拡大をめざし、当該分野に豊かな経験を有する日本からのSVの派遣を要請するに至ったものである。

 JICAのSVに応募した動機は、65.5歳まで現役で働き、さて自由の身になると暇を持て余し、地域のボランティア活動などしたが、自分の人生でまだ何か終えていないように思えていたところ、かつての鉱山の仕事が懐かしく、中小鉱山の指導に目がとまったからである。

 工学部鉱山科を卒業後、鉱山会社で金属、非金属鉱山の調査や金山の採掘などに6年携わったのち、丸紅で主に鉄、銅、クロム鉄鉱、マンガン鉱、珪石等の資源調査開発、操業指導をしてきた。定年後も中小の商社でベトナムの珪砂開発・輸入を2年間指導し、商社活動は33年に及んだ。その後また鉱山会社に入り、石灰石の坑内開発・生産に3年半携わり、退職したが、海外の夢のある鉱山開発に魅力を覚えて、3年かけて健康管理のうえJICAのSVに挑戦し採用された。

ブエノスアイレスの
サンマルチン広場にて
後方には紫色の花が満開の
ハカランダの木

 商社33年の勤務で体験できなかった妻随伴の派遣だ。やっと妻に満足してもらえた。毎日満足そうにせっせとスペイン語学校に通ったり、大使公邸の招待を受けたり、何十年も私ひとりでしていたことを二人でできるのもよいものだ。

非金属鉱産物の市場の要求条件を調査報告

 到着してすぐ、JICAが資金援助している「大来財団」の非金属プロジェクトで「アルゼンチンにおける産業クラスター開発計画調査」の非金属鉱物部門のサポートをするよう依頼があった。当時、私のカウントパートとして紹介されていたIng. Marcelo Pasinに連れられて大来財団に行き、この部門の調査研究をしていた鉱山会社のCMI(Companias Mineras Integradas)の副社長Mr. D. Meilan(元鉱山次官)と引き合わされ、それから6ヵ月間、非金属鉱産物の市場の要求条件を調査・報告することとなった。

 15鉱種についての東アジア市場に関する手持ちの資料の英訳が完成したのが5ヵ月後の昨年3月中旬のこと、手書き英文A4判で240ページの報告となった。そして、同8月25日に「緊急危機パッケージ」と名付けられた調査結果がすべてスペイン語によりJICAアルゼンチン事務所セミナーで発表された。

アルゼンチン鉱業の概要

 出来上がったその日本語訳によると、アルゼンチンの鉱業生産は、2000年に9.5億ぺソ(1992年のレートに価格調整した額)を占め、1990年に比較して137%の増加、10年間の年平均増加率は9.2%であった。これは同じ期間の国内生産の伸び率を超える数値である。2000年の鉱業生産は、現在価格に調整すると11.03億米ドルに達している。2001年の輸出額は7.54億米ドルに達し、1996年から2001年の5年間の伸びは198%、年平均増加率は24%であった。

エルカラファテの氷河の前で
丸紅NY勤務の次女と妻と3人で
アンデスの麓から14kmが望める
幅は4km、湖に崩落する高さは55m

 2002年の輸出額は約35%、増加の中心は金属品とみられ、特に銅鉱石は51%で、6.0億米ドルを記録する見込みである。この金属鉱物の輸出の増加には、この調査結果にも述べられているが、同国通貨引き下げおよび政府が2001年初旬に行った強制通貨両替固定レート(1.0米ドル=1.40ペソ)の実施の2点が大いに寄与したと思われる。

 最近の鉱業発達の背景には外国投資がある。すなわちこの8年間での外国投資は約30億米ドル、年平均では3.75億米ドルであった。90年代の年平均は1,000万米ドルであったため、2000年以降は年平均約40億米ドルの投資が入ってきたことになり、現在では多少減っているが、この傾向を持続している。

連邦鉱山局アドバイザーの仕事

 さて私の仕事であるが、業務上の地位は連邦鉱山局長および鉱山投資開発部長のアドバイザーで、対象者は鉱山投資開発部の関係職員である。業務内容は中小非金属鉱山の実態調査を行い、合理的操業法(鉱床の性状と規模の把握、合理的採掘法、環境・保安対策)を指導することである。対象とする鉱山は、ベントナイト、天青石、珪石、長石、石材等であったが、その後、硼酸塩、アスファルタイト、雲母、花崗岩/斑岩、中位には蛍石、石英、珪藻土、大理石等輸出ポテンシャルの高い鉱産物が対象となった。

イグアスの滝潜り

 現在の直属部門は鉱業管理局Dr. M. A. Guerrero、鉱業開発調整部Dr. H. O. Colon、鉱業生産支援プログラムLic. N. Pancettiの順になり、報告書は局長宛てに提出する。まず英文で出し、スペイン語の訳文を追って出す手順である。カウンターパートのLic. N. Pancettiにアルゼンチン全域の前記鉱山を紹介してほしいと依頼していても良い返事はなく、もっぱら合理的操業法の指導書作りに精を出している。

 ひとりで鉱山実態調査に出かけるにはスペイン語の会話能力に欠けるので、日系輸出業者の案内を頼りにしているが、それでも残る1年でできるだけ多くの鉱山を回り、実態把握と現地指導に励みたい。

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