マンスリー・レポート No.38 (2004年2月)
活動会員のレポート
  3年間の深センテクノセンターでの中小企業支援を終えて
    前 深センテクノセンター 顧問 神谷 誠一(元 住友商事)
新テナントと入居の打ち合わせ
(星井氏=左端=と筆者)

 2000年10月20日、ABICの中国派遣第1号として、中小企業の中国進出を支援するテクノセンターに赴任した。当時は深セン市布吉にある第1テクノセンター、李朗に第2テクノセンター、観瀾に第2.5テクノセンターがあり、また近くに第3テクノセンターとして自社ビルの建設を始めている段階であった。常駐の日本人は70歳代の星井清氏と私の二人で、テナントとして入居している中小企業は布吉に10社、李朗に1社、観瀾に10社があり、星井氏は観瀾、私が布吉と李朗、それにすべての税関関係を担当することになった。

苦労した通関関係業務

 テクノセンターには多様な業種の中小企業が入居しているが、主として電子産業の部品の機械加工、ハンドバッグの製造、金属プレス、金型製造、プラスチック成形などがあり、製品の数は400種類以上となっている。また会社規模も小さい所は200m2に従業員4名、大きな所では4,000m2で700名ほどに上る。したがって各企業の問題点が異なり、労務問題等もそれに呼応した対応が必要となる。

テナント会社の社員表彰会後の宴会に出席
大歓迎を受ける

 中でも一番の問題点は貨物の輸送で、輸出入を順調に行うためには税関関係をいかに問題なくクリアーするかである。テクノセンターでは各テナント全体をまとめて手続きをしているので、1社がミスをして税関検査の対象となると、その検査が終了するまで全体の貨物の輸出入が止まってしまうことになり大問題となる。ところがこの点の認識が非常に薄く、また輸出入の基本的なことを理解していない中小企業が多いため、考えられないトラブルが相次ぐことになる。機械を入れたコンテナの中に、材料や、作業着を混入し、貨物検査で見つかり密輸として罰金を取られたこともあった。手続きさえすれば全く問題なく輸入できるのにと歯ぎしりするのだが、日本から他のものを混入しているなど、何の連絡もないので仕方がないと済まされてしまう。罰金が1万元を超すとBクラスに転落し、多額の保証金を積むことになるので、あちこち駆けずり回り、必要なときは税関長にまで押しかけ、問題の解決にあたることになる。この3年間、税関関係でいろいろな問題があったが、なんとか解決ができ、税関の企業評価Aクラスを維持でき、輸入ごとに保証金を支払うことなく過ごせたことは喜ばしいかぎりであった。

テクノセンターの大運動会

SARS発生と大運動会

 テクノセンター勤務の3年間で印象深かったことは、昨年のSARS発生と毎年11月のテクノセンター名物の大運動会である。SARSの発生は、まかり間違えば工場閉鎖に追い込まれる可能性もあり、どのように対策をとるかテナント全社の真剣な対応が必要となり、消毒液による毎日の工場清掃、工員の手洗いの励行、工場出入りの体温検査を実施した。しかし5月1日労働節に観瀾で地方の舞踏団の公演があり、舞踏団の団員にSARS発症の疑いがある者が出たとのことで、公演の入場者全員に隔離の指示が出た。テクノセンターにも3名の入場者がいることが判明したため、隔離の場所を作り、直ちに隔離をした。ところが翌日、その団員がSARS発症者ではないことが判明、隔離宣言が解除された。1日のみの隔離で終わり、全体としての影響が出なかったので一安心したが、その間の心労は筆舌に尽くせないほどのものであった。

 また、毎年11月に開催されるテクノセンター主催の5,500名からなる大運動会は、それまでの準備に3ヵ月は優に要し、通常の仕事に加え、猫の手も借りたいほどの忙しさとなる。毎夏、インターンシップで来る日本の大学生も手伝いを買って出て、日本からわざわざ参加してくれる。運動会当日は、それぞれのチームが自社のため必死になって競技に参加し、大声で声援を送る大きな盛り上がりが、参加者全員に素晴らしい感動と充実感を与え、3ヵ月間の苦労が報われる思いであった。

使命感を達成した喜び

 現在テクノセンターは観瀾に集中しており、新規入居企業は2002年が12社、2003年が9社であった。一方、卒業する会社もあり、現在の入居企業は合計37社、約3,000名である。

 思い返せばこの3年間のテクノセンターの仕事は、現役時代の5年にも匹敵するハードな仕事であった。しかし念願の中小企業を援助する事業に携わることができたこと、かつ日本から進出したテナントの方々から感謝されたことはその使命感を達成できた喜びとなり、充実感に満ちたものであった。これからもできるだけ、中小企業の中国進出へのお手伝いをしたいと思っている。

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