活動会員のレポート

地震発生時の「避難所における外国人被災者支援研修」に参加して

小中高校国際理解教育グループコーディネーター  坂本 さかもと 英樹 ひでき (元 日商岩井)


研修風景

ミャンマーからの留学生とのやり取り

 2024年は能登半島地震という大災害で幕を明けた。日本では近年でも東日本大震災、熊本地震など大きな地震に見舞われ、これから東海地震などが起こると予見されている。各地の自治体や国際交流協会などでは、地震、台風、大雨などの災害時に外国人を支援するボランティアを対象に、研修会や実地訓練などを年数回開催している。台風、大雨などは天気予報で事前把握が可能なため、研修会はいつ発生するか分からない地震をテーマに行われることが多い。
 東京都が設立した公益財団法人東京都つながり創生財団は、2023年12月8日、東京都内の区市町村や国際交流協会の職員、災害時に外国人支援を行うボランテイア約45人を対象に、地震発生時の「避難所における外国人被災者支援研修」を開催した。都内には、2023年7月現在、61万人以上の在住外国人が生活しており、首都直下型地震が発生した場合の外国人支援は喫緊の課題となっている。そのような災害時には、区市町村、国際交流協会および地域のボランティアの活動が重要になってくる。今回の研修の目的は、避難所での外国人支援についてロールプレーを通して考えることであった。
 ABICは日ごろから東京在住外国人とつながりが多いということで、東京都つながり創生財団から本研修のロールプレーを行う外国人被災者役の手配を依頼された。そこで、留学生支援グループのコーディネーターの協力を得て、東京国際交流館で日本語を勉強している留学生に声を掛けたところ、10人の応募があった。10人の出身は、台湾、ベトナム、中国、ミャンマー、ケニア、フランス、米国、ブラジルと多岐にわたり、複数の言語が必要な状況をつくることができた。
 留学生たちが演じるのは、地震で家が壊れたため避難所に来た日本語が全く分からない外国人という設定。日本人を困らせることを意識して、避難所にペットを連れてきても良いか、国の家族に無事を伝えたい、避難所に書いてあることが分からない、「ご自由におとりください」と書いてある食べ物を三つ取ったら日本人に嫌な顔をされた、などの質問や相談を、英語、中国語、フランス語、ポルトガル語などで研修参加者に話してもらった。研修参加者は、外国語が分かる人はその言葉で、分からない人は携帯の翻訳アプリで対応していた。
 ロールプレー終了後、留学生の代表2人に研修参加者の前で感想を話してもらった。2人が日本語で話し出すと、研修参加者の皆さんは「なーんだ、日本語を話せるのか」と苦笑いしていた。留学生が研修の趣旨をよく理解し、予想以上に役を演じきってくれたことで、実態に即した非常に良い研修になったと東京都つながり創生財団も評価してくれた。研修参加者からは、外国人が参加してくれたので避難所がよりリアルに感じられた、コミュニケーションの難しさを感じた、多くの気付きが得られた、などの感想があった。留学生たちからは、楽しかった、災害のことだけでなく日本語の勉強にもなった、などの声があった。
 研修後1ヵ月もたたないうちに能登半島地震が発生した。被害が大きかった奥能登地域には約160人の外国人技能実習生がいたが、避難所にいても母国語での情報がなかったり、生活様式の違いなどで居づらくなったりして、避難所を離れる人が多かったという。東京と地方では居住する外国人数や外国人を支援する団体数などに違いがあって、外国人の避難所での生活のハードルの高さは異なるかもしれない。しかし、各地でこのような研修を重ねることによって、いざというときの活動の知識を持つことは、外国人との共生の観点から、とても重要なことだと思う。