活動会員のレポート

東京外国語大学とABICの連携による「オープン・アカデミー」開催

 ICSICセンター長  和田 わだ 昌親 まさみ (日本経済新聞社客員、元 常務取締役)


講義風景

 東京外国語大学の社会・国際貢献情報センター(ICSIC)と国際社会貢献センター(ABIC)は包括連携協定を結び、定期的な情報交換にとどまらず、スーパーグローバル・ハイスクール(SGH)への講師派遣での協力、留学生の活用拡大などさまざまな活動を展開している。そうした相互協力をさらに強化するため、東京外大の一般人向け講座「オープン・アカデミー」にABIC会員の講師を派遣することとし、2017年8月29-31日に初めての「産学連携国際講座」を都内で開いた。副題は「海外事情に詳しい国際ビジネスマンと外交官が語る世界の日本」で、オープン・アカデミーとしては異色の連続講座となった。
 オープン・アカデミーは東京外大の名物講座だが、これまでは語学の初級コースが中心で、ビジネスや外交とは無縁の講座だった。しかし、東京外大に言語文化学部だけでなく「国際社会学部」が誕生し、本物の国際人を育てるカリキュラムが重要な位置を占めるようになってきた。大学側は世界経済、国際政治、海外ビジネスといった実践的な教育を強化しつつある。
 そんな実情に合わせ、今回ABICの会員が海外ビジネスの経験、知見を提供、「産学連携国際講座」の形が実現した。講座は3日連続。初日と最終日はABICの会員、2日目は東京外大出身の元外交官が担当した。それぞれの講師の国際経験等に基づいた講義であった。
 1日目は、ロシア経済をテーマとするものであり、講師は丸紅の元ロシアCIS総代表の朝妻幸雄氏であった。長年にわたりロシアを間近に見てきたロシア通である。日本では、ロシアといえば北方領土に関心が集中しがちであるが、幅広い観点からロシアという国を見つめたいという講師の視点がよく出た講義であった。
 2日目は国会勤務の経験を持つ元外交官・名井良三氏であった。名井氏は外務省ではブラジル勤務が長く、ベレン総領事のあと、アフリカの資源国アンゴラの大使を歴任している。今回の講義内容は、日本の国会というものの説明から始まり、総理や閣僚も追いつめられることもある国会の制度というものを取り上げた。また、安倍総理が狙う長期政権と外国、特にアフリカの長期政権の比較を行い、最後が南スーダンから撤退したばかりの日本のPKOについての解説であった。
 3日目は、元三井物産戦略研究所社長であり現在もその特別顧問を務める中湊晃氏の講義であった。「世界経済の動きを見る」と題し、1990年代の経済から始まり、その後、現在、そして将来の世界経済へと移行した。話は中国、米国、ロシアなどの国々にもおよび、世界経済という大きな視点からの講義であった。世界各地を幅広く動き回ってきた講師の知見がよくあらわれた講義であった。今回の講座は、各種の分野を扱う広範な内容のものであった。
 講座開設の場所が東京外大の本郷サテライトというさほど広くないところだったため、参加者の数が30人に限定され、残念な印象もあった。それでも参加者の年齢層は高校生から退職者まで幅広く、「産学連携国際講座」への関心の高さをうかがわせた。大学側もABICも今回の結果を踏まえ、さらに講座の中身を改善し、魅力ある連携講座にすることを考えている。