活動会員のレポート

ロシアのセミナー講師体験記

  蛭間 ひるま 康夫 やすお (元 小松製作所)

 ABICの高塚コーディネーターから要請をいただき、2016年10月にロシアでセミナーを行う機会を得た。「製造工程における品質管理」という講義テーマだったので、機械メーカーの製造部門経験者である私が起用されたようだ。私は、これまでロシアへは渡航経験がないばかりか、実のところロシアに対して良い印象を持ってはいなかった。しかしながらソ連崩壊後の大きな変化、特に近年は街が明るく人々は開放的になっているとの情報も入っていたので、実際に確かめる良い機会と思い、本ミッションをお受けした。
 セミナーの依頼元はロシア国内に6ヵ所設置されている日本国外務省管轄の日本センター。毎年多様なテーマでロシアのビジネスパーソン向けにセミナーを開催しているとのこと。今回はロシア西部で全4回の巡回セミナーである。講義は通訳付きで6時間の長丁場だ。資料作りは、言葉や文化の異なる受講生が理解しやすく、長時間でも飽きさせない進め方等々に頭をひねった。演習問題を含めて120ページの資料をなんとか完成させて、翻訳を依頼し、いざ渡航となる。
 成田からモスクワのシェレメチェボ空港へ10時間のフライトを経て、空港ホテルで1泊後、国内線に乗り継ぎ2時間、最初のセミナー開催地であるエカテリンブルクに到着。この街は、欧州とアジアの境界であるウラル山脈の東側に位置する工業都市で、ロシア革命でニコライ2世一家が悲惨な最期を遂げた地としても有名である。セミナーの受講生は皆とても熱心で積極的なリアクションがあり、予想以上に順調なスタートだった。
 翌日、ウラル山脈を越えてロシアの旧都サンクトペテルブルクに移動。今回のセミナーを企画された当地日本センターの松原所長は、商社勤務時代からソ連・ロシアに駐在し、長年にわたり両国の交流に尽力されている。サンクトペテルブルクはロシア2番目の大都市で、人口100万人を超える都市としては世界で最も北に位置する。セミナー会場は世界遺産の市街にある大学で、古都の歴史を感じつつ80人の受講生の熱気に包まれた。
 次はムルマンスクへ移動、北極圏にある都市としては世界最大で、軍港を持つ不凍港として知られている。小さな空港から車で約1時間、ロシアでは珍しい起伏のある道を進み街中のホテルに到着。オーロラを期待したが、時期尚早とのことで残念。会場はホテル内の小さな会議場だったが、外の寒さとは無縁の白熱した議論を行った。
 モスクワに戻り、当地日本センターの浜野所長の同行を得て電車で2時間半、最後のセミナー地カルーガへ。浜野所長もソ連・ロシア駐在が長く、同国の文化や歴史に造詣が深い。ここでは思いがけずテレビ局の取材があり、「この地域で改善すべき点は?」と聞かれ、初めての地なのにいきなりこの質問はないでしょう!と内心焦ったが、セミナーの趣旨等を説明し切り抜けた。後日ニュース放映を見ると、思いの外大きく取り上げられていたので本当にびっくりした。
 各地のセミナーに共通して言えることは、数多くの積極的な質問を受けたことだ。その内容にはQCサークルのような時間外活動や労使の関係に関するものがあり、国情の違いをあらためて認識した。ロシアに対する訪問前の印象は良い意味で裏切られ、見たものは洗練された欧州の清潔な街並み、礼儀正しく親日的な人々であった。付け加えると、地方色豊かな料理がとてもおいしい。ぜひ再訪したい国である。


サンクトペテルブルクでのセミナー風景
(左から筆者、通訳、副学長、松原所長)

セミナー会場

カルーガで(左から筆者、
スタッフ、主催者、浜野所長)