活動会員のレポート

甲府での初仕事

  武藤 むとう 敏直 としなお (元 住友商事)

 2014年7月にABIC会員に登録させていただき、初仕事として甲府の中小企業支援センターに出張した。中小企業支援センターに関しては中小企業白書等を通じて理解はしていたが、具体的な支援依頼に基づき中小企業の社長へアドバイスする経験は、初めてで新鮮であった。
 依頼内容は、パームオイル残渣ざんさから発生するメタンを削減することによって排出権クレジットを獲得し、そのクレジット収入を、同社がマレーシアの顧客に売り込みを行っている汚水処理プラントの投資回収の一部に充てられないかというものであった。
 最初に感心したのは10人弱の会社の社長が自らマレーシアに出掛け、言葉の不自由を克服し自ら開発した特許出願中のバイオ技術を駆使して海外事業を開拓しようとしているスピリットである。
 依頼に対するアドバイスとしては、京都議定書に続く『温暖化ガス削減に関する世界的な次期枠組み』が決まるまで排出権クレジット取得に向けた投資は様子を見た方がよいと申し上げた。環境の仕事に携わる人には常識的な考えだが、それでも社長から感謝され自分にも人の仕事に役立てる経験はあるのだと認識できた。
 このようなアドバイスを行った最大のポイントは、ピーク時の100分の1にまで下がった排出権クレジットの市場価値である。それほど市場リスクの高い分野であり、安定的な市場にするには米国、中国という温暖化ガス排出二大国が枠組みに入ることが不可欠である。
 11月に北京で開催されたAPEC会議直前に米国・中国両国首脳が首脳会談の後、温暖化ガス排出削減に一歩突っ込んだコミットメントを表明したことで、2015年末までに次期枠組みの骨格が出来上がるのではと期待が持てる。
 退職する前から感じていたことだが、商社のOBが商社業界の激しい競争の中で積んできた経験は、海外の市場やそのリスク、またさまざまな業界動向等に精通していることから、かなり市場価値のあるものだと思う。特に中小企業の経営者にとって、何十年もかけて積んできた経験とその判断力を活用できることは、限りある時間を有効に使える点で相当な付加価値を持つ。
 こういった商社OB個々人の価値と、中小企業経営者のニーズをうまくマッチングさせていくことは、ますます高齢化する社会にとって経済的付加価値を高める有効手段になっていくと思う。
 今回のような機会を今後も持つことができれば、自己啓発にもなり、人の役に立つ喜びにもなる。今後ますますABICの活動が活発化することを期待します。