活動会員のレポート

歌は世につれ年につれ

佐藤 さとう とおる (中小企業支援担当コーディネーター、元 伊藤忠商事)

 海外での出稼ぎからの帰国直後に悪性腫瘍に襲われ、手術後のリハビリを兼ねて学生時代に少しやった男声合唱を復活した。今では混声合唱団3つ(1つはこの4月公演で解散)、男声合唱団1つに所属し、昨年からはプロの個人レッスンを受けているので週に3−4回は歌う機会がある。
 もともと合唱はキリスト教の教会音楽を発祥とするが、日本では明治の小学校教育に導入され、今では東京混声合唱団等のプロの合唱団ができるまでに発展している。
 合唱の良いところはまず第一に、歌うことで口腔、肺、内臓などを刺激して脳が活性化することだ。もっとも脳の老化のスピードの方が早ければ、老化を若干遅らせる程度の効用しかないが…。第二にはハーモニーの美しさ(うまくハモるという)による感動だ。これは練習のとき、あるいは舞台で演奏するときでも、うまくいけば何ものにも代えがたい感情の高まりがあり、聞く人に感動を与える喜びだ。第三には歌う仲間だ。いまだ現役で仕事をしている団員もいるが例外的で、ほとんどの団員は65歳以上の年金生活者だ。団の構成員は、それぞれ長い年月をさまざまな分野で活躍してきた人達なのでそれぞれに個性があるが、波長のあう仲間がいると親しくなり、歌の舞台になった場所などへ一緒に旅行したりして面白い。
 反面悪いところというか問題もある。第一に、合唱は決して一人では成立しないことだ。少人数の団だと7−8人からあるが、東日本大震災で天井が落下した(幸い観客がいなかった)ミューザ川崎の改築記念公演として、4月末にマーラー作曲「交響曲2番復活」を歌う混声合唱団は200名(筆者もその一人)だ。多様な人間がいるのは良いことなのだが、複数の人間がいると必ずイサカイが起こる。これが深刻化すると団が分裂したり消滅したりする。
 問題の第二は、結構金がかかることだ。合唱団の構成は通常主宰者、指揮者、団員で成り立つが、主宰者(指揮者を兼ねることが多い)というのは団の運営(主にお金に関連すること)と音楽についての決定権者である。また団員の総意で団が運営されるパターンもある。団員数の多い常設合唱団はこのパターンが多い。特に後者の場合意見がいろいろあってもめることがある。団の運営に必要な資金は団員によって支払われる団費で賄われるが、指導者(指揮者)の質、練習回数の多少、練習会場の質・立地条件等で団費の金額が変わる。だいたい月に1,500−5,000円が相場で、コンサートホールを借りて演奏会をやる場合やプロによるボイストレーニングがある場合は別途支払いが必要になる。複数の合唱団に属していると結構馬鹿にならない金額になる。
 第三の問題点は、多くの素人合唱団が直面する団員の高齢化と新陳代謝が進まないことだ。われわれの学生時代は娯楽の種類も少なく歌う人口は結構あったのだが、今や大学によってはグリークラブ(男声合唱団)が成立しないこともあると聞く。団員は年をとるのに後釜が入ってこないケースが多くなってくる。
 最後の問題として暗譜(楽譜を見ずに歌うこと)がある。年とともに記憶力が衰える中、音の高低、長さ、強弱、歌い出す場所などを覚えるだけでも大変なのに、歌詞も覚えねばならない。日本語ならまだしも英語、ラテン語、フランス語、イタリア語など多様な外国語を覚えねばならない。先述のマーラーの曲はドイツ語の暗譜だ。頭が痛い。
 何歳まで歌えるのか?(その前に何歳まで生きられるのか、という問題があるが)はさておき、今日も厳しい練習指導へと足を向けるのだ。