活動会員のレポート

小中学校国際理解教室講師体験「イギリスに学ぶ」

山本 やまもと 一徳 かずのり (元 パイオニア)


板橋区立第六小学校での授業風景

 ABICより国際理解教室の講師のお話を頂戴し、新渡戸文化中学校、北区十条台小学校、そして板橋区第六小学校の3校で国際理解教室「イギリスに学ぶ」の講師を担当させて頂いた。
 私が中学を卒業したのは1958年(昭和33年)、まさに「Always三丁目の夕日」の時代だ。貧しい日本に住むわれわれにとって、当時の欧米先進国は憧れの的で、海外に雄飛することを多くの若者が夢見る時代だった。私自身が欧米に対する強い憧れをいだき、欧米に追い付き追い越せの先兵の一人として海外で25年間仕事をし、多様な価値観に接し多くの得難い経験をした。
 私と同じ様な体験を多くの若者にして欲しいという思いを日頃から持っていたので、今回の講師のお話をお引き受けした。そして、一人でも多くの生徒に「海外に対する興味を持ってもらうこと」を狙いにして授業内容を組み立てた。
 現在の若者は海外に対してあまり関心を持たないといわれる。それは若者の無気力や無関心が理由ではなく、日本が物質面では欧米先進国に追い付いた結果、もはや欧米は先進国でも憧れでもなくなったことが最大の理由だろう。今の若者に海外に目を向けさせるためには、別の動機付けが必要だ。
 イギリスが学習の対象に選ばれたのは、2011年のウイリアム王子の結婚、2012年のエリザベス女王即位60周年記念、そしてロンドン・オリンピックと、大きなイベントが続き、イギリスに対する関心が高まっているためだと思う。
 ロンドン・オリンピックの録画映像の一場面を見せたり、パワーポイントにはできるだけ多く画像を使うなどして、生徒の興味を引きつける工夫をした。具体的には日本とイギリスを対比させ、共通点と相違点をあげて考察した。
 きちんとした自分の意見を持つと同時に、他人の異なる立場・意見も尊重する良き個人主義を社会基盤とし、伝統を大切にしながら常に革新を求める姿勢、日常と非日常のメリハリを付けて人生を楽しむ姿勢、自然保護活動、慈善活動の推進等々、イギリスを語るのに枚挙のいとまがない。
 物質面では欧米先進国に追い付いたとはいえ、精神面や社会構造面ではまだまだ改善、強化の余地が残されている。特に失われた20年を経験し閉塞感が漂う今、日本人が自信を取り戻すためにも、欧米から謙虚に学ぶことが必要だ。また、海外から眺めると改めて日本の良さにも気が付く。日本の良さを再認識して誇りに思い、それを守ることも大切だ。
 「教えることは学ぶこと」今回の授業を前に過去の記憶を思い起こしたり、関連書籍に目を通したりしてイギリスについて考察し、日本の現状に思いを巡らせた。日本でも「教育の改革」が話題になるが、その必要性と緊急性をあらためて再認識した。イギリスのしなやかさ、したたかさの根底には多様性に富んだ良質な教育システムがあるように思う。
 2012.12.26の日経新聞で「日本人学生の海外留学に回復傾向が出て来た」という記事を目にした。われわれ海外経験者が今回のような特別講義を積み重ねることにより、さらに多くの若者の目が海外に向けられることになれば大変喜ばしい。
 貴重な機会を斡旋しご指導頂いた ABIC関係各位にあらためて感謝したい。