活動会員のレポート

茨城県の中小企業貿易支援業務

(財)茨城県中小企業振興公社 食品輸出アドバイザー 石川 いしかわ きよし (元 丸紅)


定期貿易実務セミナー
(2011年12月):
定期的に30社程度の企業向け
セミナーを行っている。
中身の30%程度は貿易実務知識で、
今回は「インコターム規則」、
「最近の課題のFTA/TPPの解説」、
「毎回行う貿易成功事例から学ぶ」
であった。

支援中の企業表彰された
皆様と筆者(中央):
支援中の企業が
「経営企画アイデア優秀賞」
を県から表彰された。
その表彰式と経営企画アイデアの
発表会で企業の皆様と記念撮影。
皆貿易振興事業に意欲的。

 2011年4月より茨城県の中小企業貿易支援業務に従事してからほぼ一年になる。就任後、企業の皆様と今後の支援業務をどのように進めるべきかを検討するために有力企業20社に集まっていただいた。お互いに胸襟を開いて意見交換した結果、次の方法で支援業務を進めることにした。

① 定期的に貿易実務セミナーを行う。
② ほとんど貿易経験の少ない企業が多いためセミナーの30%程度貿易実務知識を解説。
③ 小職の手持ち資料から海外・国内企業の貿易実務成功事例を写真入りで解りやすく説明。それを各社の貿易取組の参考にする。
④ 貿易実務相談にはいつでも来社いただく。必要あればこちらから訪問支援する。
⑤ 各社で貿易取引開発に成功した場合、成功者即ちファシリテーターとして定期セミナー時に発表していた
だく。

 この方法は小職がJICA専門家業務としてアジア諸国で数年間実施したものと同じ内容である。業務開始後できるだけ企業訪問した。3.11の震災直後でもあり、多くの生産工場の一部損壊と沿岸部の津波による被害が多いことを知った。さらに福島原発事故により時間経過とともに水産物と農産物全般に風評被害を受けた。このため海外諸国の当県産品の輸入禁止または検査条件などを突きつけられ、食品類の輸出は事実上困難になった。
 生産者の皆様のバイタリティーは旺盛である。輸出がだめなら国内販売に当面注力するので協力して欲しいと強い要請を受けた。その結果、首都圏の売り先主体に農産物販売を支援して現在に至っている。県内は豊かな水と肥沃な農地に恵まれている。野菜と果物の生産は豊かである。栗の生産量1,600トン、レンコン、メロンなど生産量は日本一である。
 最近、北関東自動車道が開通。既存の常磐自動車道、東関東自動車と合わせて首都圏へのアクセスは至便。スーパー、市場向け販売の他、現在、外食レストラン、加工メーカーへの商談を進めている。
 一方、技術の高い機械、部品メーカーが多い。大手電機メーカー向け部品や大手ショベル系掘さく機、複写機、医療器具、電力ケーブルメーカー向け部品メーカーが多く活躍している。従来大手メーカー向けに国内供給していたが、最近の海外工場移転に伴い輸出業務が求められる。また県内には潜在的な高技術と優れた製品が多いことを認識した。海外ではその優れた技術・部品を十分知られていない「臥龍企業」である。今後、貿易実務と海外営業力を培った場合、海外市場に販売拡大できる可能性は極めて大きい。

 昨年後半から支援企業が次々に貿易取引実績を上げた。飲料機用特殊チューブの欧州からの輸入、南米向け日本酒輸出、リサイクル原料や医療器具部品のアジア向け輸出、アジアから発電機や変圧器の輸入、中古車のアフリカ向け輸出などが実現した。年末のセミナーには数社が胸を張って成功事例を発表した。とても初めての成功とは思えない自信を持った発表であった。
 発表者からは海外貿易をやってみて商売の視野が大きく広まったという感謝の発言があった。一方、参加した他の企業からは、次は自分たちも頑張って成功したいという抱負も聞かれた。またこのセミナーに輸出入業務に係った乙仲からも数人参加し、企業の成功を共に喜び合った。参加者全員が貿易業務に自信を持ったことは嬉しい。

 昨年後半から大幅な円高(ドル安) の環境にある。またFTA/TPPの課題が多くなり、毎回セミナーにはこれらの関連情報解説と対応策を話題にしている。次々に起こる環境変化に対して企業の皆様はタフに対応している。茨城県のこの一年の標語は「がんばっぺ! 茨城」。県民性から皆誠意誠実である。
 県の職員関係者も中小企業の貿易振興に真剣である。茨城県の中小企業貿易振興事業の未来は明るい。